335 思い出す

「奈津子、氷を探してきて」井上が慌てて叫んだ。

奈津子は立ち上がったが、テーブルにつまずいて、激しく床に倒れた。

「奈津子、気をつけて!」佐々木は思わず心配そうに叫んだ。

奈津子は立ち上がり、よろよろとキッチンへ向かい、冷蔵庫を開け、震える手で氷を取り出し、手近なタオルで包んで井上に渡した。

井上は氷袋を藤原の後頭部に当て、低い声で言った。「救急車を呼んで!」

奈津子はすぐに従った。

関口はこの光景に呆然としていた。「彼女が、どうしたんだ?」

忙しい二人は彼に構う暇がなかった。

佐々木は静かに手を離し、関口を立たせたが、まだ彼を掴んで、藤原に近づかせなかった。

「藤原さんの頭部に腫瘍があって、完全に吸収されていないんです。だから記憶喪失になっているんです。医師も彼女がいつ回復するのか、あるいは永遠に回復しないのかを判断できません。その腫瘍は彼女の脳内で時限爆弾のようなもので、もし爆発したら、結果は予測できません。だから、彼女はショックを受けてはいけないんです!」佐々木は静かに説明した。