部屋のドアを開けると、室内の様子に藤原美月は懐かしさを感じ、心臓の鼓動が早くなった。
彼女はすぐに二見奈津子に電話をかけた。最も信頼できる人の証言が必要だった。
家の中はどこもほこりひとつなく、人が住んでいるようには見えなかったが、誰かが丁寧に掃除をしているのは確かだった。
藤原美月は、リビングの棚に置かれた置物に手を触れた。それは彼女の大好きなキャラクターだった。ここにあるすべてのものが、まるで彼女のために特別に用意されたかのようだった。ただし、見慣れない男性用の物もあり、それは井上邦夫のものではなかった。
藤原美月はリビングの中央に立ち、目を閉じて、周りの空気の流れと、封印されたような自分の記憶を感じ取った。次第に、キッチンからかすかな水の流れる音が聞こえてくるような気がした。
藤原美月は目を閉じていてもキッチンがどこにあるか、トイレがどこにあるか、南側の寝室のベランダに鳥の彫刻があることを知っていた。それは彼女が旅行に行った時に、苦労して持ち帰ったものだった。リビングの装飾にしようと思っていたが、あの人が醜いと言ったので、ベランダに置かれ、靴を干す台になってしまった。
藤原美月は深く息を吸い、目を開けた。心の中に理由のない不快感が湧き上がってきた。
彼女はゆっくりと歩き、一つずつドアを開けていった。
キッチン、トイレ、南側の寝室のベランダにある鳥の彫刻——
藤原美月は立ち尽くした。
「思い出したの?そうだろう?美月?」突然、背後から関口孝志の低い声が聞こえた。
藤原美月は急に振り返った。部屋に他の人がいることに気付かなかった。
藤原美月は激しく鼓動する心臓を抑えようと努めた。頭が微かに痛み、多くの光景が次々と浮かび上がってきた。それらは彼女に何かを見せようとしていたが、あまりにも多すぎて混乱し、何も見えなくなった。
彼女は目を閉じ、体が揺らいだ。
「美月?」関口孝志は彼女を支えようと手を伸ばした。
藤原美月は本能的に彼を押しのけ、壁に寄りかかって立った。「近づかないで!」
関口孝志は哀願するような目で彼女を見つめた。「美月、思い出したんだろう?ここは僕たちの家だよ!僕たちはここで7年間暮らしていた。ここにあるものは全部、君が丁寧に選んだもので、君の大好きなものばかりだ。思い出したんじゃないか?」