388 執着

藤原美月の話題を出すと、まるで禁忌の扉を開いたかのように、関口孝志の顔は一瞬にして青ざめ、うつむいて黙り込んでしまった。

佐々木和利は弟を見つめ、優しい声で言った。「ごめん、関口。」

関口孝志は両手を組んで、小さな声で言った。「違うんだ、違うんだよ、彼女たちは皆違うんだ!」

関口孝志は突然立ち上がり、振り返ることもなく外へ向かった。

佐々木和利は怒って車椅子から立ち上がった。「関口!少しは目を覚ませ!」

関口孝志はドアを開けて出て行き、佐々木和利を見ることもなかった。

二見奈津子はため息をつき、佐々木和利は車椅子に崩れ落ちるように座り、肘掛けを強く叩いた。「まったく理解できない!」

二見奈津子は諭すように言った。「もういいじゃない、怒らないで。さっき彼が振り返らなくて良かったわ。もし立ち上がった姿を見られていたら—」

彼女は言葉を続けなかった。佐々木和利は不機嫌な表情で、話題を変えた。「お義姉さんはどう?」

二見奈津子は首を振った。「外界に対する反応が全くないわ。」

向井輝は目を覚ましたものの、人にも物にも、音にも光にも、まったく反応を示さず、魂の抜け殻のように虚ろな状態だった。

佐々木光は彼女のそばで常に見守り、途方に暮れながらも心を痛め、向井輝を傷つけた者を必ず見つけ出すと誓っていた。

佐々木和利は考え込むように言った。「そろそろ時期だな。退院するという情報を流そう。物事を進めなければならないし、あの妖怪どもを表に引きずり出して、一網打尽にする時だ。」

彼は立ち上がり、二見奈津子を抱き寄せ、優しく髪の頂きにキスをした。「申し訳ない。本来なら君を風雨から守れるはずだったのに、かえって多くの苦労をかけてしまった。」

二見奈津子は彼の腰に手を回し、胸に寄り添った。「夫婦は一心同体よ。栄辱を共にするものでしょう!あなたが佐々木氏に戻れば、少なくとも表面上は全てが正常に戻るわ。他のことは一旦置いておいて、晴子さんと井上さんの結婚はもう延期できないわ。私たちのために、彼らは何度も結婚式の日程を変更してきたのよ。これ以上は待たせられないわ。」

佐々木和利はそれを聞いて微笑んだ。「彼らが私たちを招待してくれるかどうか、わからないな。」

二見奈津子も笑った。「わからないわね。」