夜、賢治が会社から帰宅した後、和音を佐藤家本邸へ連れて行った。
和音の祖父母はこの二日間に起きた出来事をすでに知っていたので、賢治に彼女を連れて来させたのだった。
直樹の件は深刻で、彼の将来に関わることだったため、賢治は老夫婦に隠し事をしなかった。
佐藤家の老夫婦は本邸に二人で暮らしており、子供たちは皆独立して別に住んでいた。
しかし、何かあると皆本邸に戻ってくるのだった。
年末年始には必ず本邸に戻り、老夫婦と過ごすことになっていた。
本邸までは車で三十分ほどかかった。
門に着くと、黒い大きな鉄の門が自動で開き、車は中庭に入った。
佐藤家本邸は典型的な中世ヨーロッパ風の建築様式だった。
本邸では、佐藤家の老夫婦がすでに長時間待っていた。
祖父は定年後だったが、威厳は依然として保っていた。
白髪交じりの髪、痩せた体つきながら、まだ健康そのものであった。ただ、若い頃からの持病があり、天気が悪い時には具合が悪くなることがあった。
祖母も同様に白髪交じりだったが、依然として端正で気品があり、生まれつきの気品を漂わせていた。
賢治が和音の手を引いて入ってきた途端、祖母が近寄ってきて、すぐさま和音を自分の側に引き寄せた。
「私のかわいい子、怖い思いをしたでしょうね?」祖母は身を屈め、和音を優しく慰めた。
「母さん、今回は和音が悪いんです」賢治は眉をひそめた。母親のこの態度では、まるで和音が被害者であるかのようだった。
「そんなこと言わないで。和音にどれだけの力があるっていうの?人を階段から突き落とすなんて、そんな力があるわけないでしょう。それに、直樹は彼女の実の兄なのよ。和音が故意に突き落とすわけがないじゃない。子供同士の喧嘩で誤って転んだだけなのに、和音が故意に押したなんて言うなんて…あなたは父親として、どうしてそんなことが言えるの?和音はそんな悪い子じゃないわ!」祖母は気にも留めなかった。
和音の両親とは違い、祖母はあくまで彼女を信じていた。
祖母は三人の息子を授かったが、娘には恵まれなかった。ずっと娘が欲しいと願っていた。
自分に望みがなかったので、せめて息子たちに期待をかけるしかなかった。
ところが、三人の息子たちはなんと八人もの男の孫を授かった!全部男の子ばかり!女の子は一人も恵まれなかった。
ああ、それはもう心底がっかりしていた。
待ちに待った和音が生まれ、『女の子です』と聞いた瞬間、これ以上ないほど嬉しかった。
いつの間にか、他の孫たち以上に和音を可愛がるようになっていた。
いつでも和音を本邸に呼び寄せ、自分で手ずから教育した。
孫は大勢いたが、和音が最も長く傍にいた。五歳になるまで、実に半分もの時間をこの祖母が育てたのだ。
この手で育てた子だから、彼女の性格は誰よりも分かっていた。
この子は少々甘やかされて育ったから、気性が激しいところはあるかもしれない。だが、根は悪い子じゃない。ましてや実の兄を階段から突き落とすなんて、そんな残酷なことは決してするはずがない!
気性が激しいところだって、佐藤家でただ一人の女の子なんだから、少しくらい甘やかしたって構わないと、祖母は考えていた。
「母さん、和音をそんなに甘やかしてはいけません。間違いを正すために、私と治美は必死にしつけようとしているんです。母さんがこうされていると、私たちの努力が水の泡になってしまいます」賢治は深くため息をついた。
「どういうこと?今の発言は、私の教育が良くないと言っているの?私の教育が良くないのに、あなたたち三人を立派に育て上げられたというの?今は私が年を取って、子供の面倒を見られないと言いたいの?」祖母はますます激昂し、話を聞く耳を持たなかった。
「母さん、そういう意味じゃないんです…」賢治は必死に説明しようとしたが、どうやら説明すればするほど、ますます不孝者のように思われてしまうらしい。