「これからしばらくの間、和音のことをよろしくお願いします」と正志は佳津に言った。「承知しました」と佳津は答えた。
「じゃあ、今日から始めよう。今週は少し大変かもしれないけど」
「はい」
大変なのは問題じゃない。家庭教師を毎日すれば、それだけたっぷりの報酬がもらえるということだ。
正志も家庭教師の報酬を日払いで支払うと約束してくれた。
これは母の入院費の問題を解決するのにちょうどよかった。
言い方は悪いかもしれないが、和音の今回の休暇は佳津にとってまさに渡りに船だった。
そして、二人は一緒に彼女の書斎へ向かった。
和音の書斎は、女の子らしい雰囲気が漂っていた。佐藤家の両親にとって唯一の娘で、まさにお姫様のように育てられており、書斎も部屋もピンク色で可愛らしく装飾されていた。
もちろん、和音はこうしたピンク色の雰囲気が好きではなかった。それは彼女の内面の気質とは全く合っていなかった。
しかし今は、自分の部屋の装飾を変える時間はなかった。もっと重要なことがあったからだ。
佳津は書斎に入ると、そこに漂う濃厚な少女らしさを感じ取った。
まさに佐藤家のお姫様だが、実際にはむしろ悪魔だとも言われている。少なくとも学校では、そんな評判だった。
佳津はこうした女の子には全く興味がなかった。彼女が悪魔であろうとお姫様であろうと、彼にとっては達成すべき任務の一つに過ぎなかった。
佳津は彼女の先月の月例テストの結果用紙を受け取った。
和音は高校一年生になったばかりで、最初の月例テストの成績が非常に悪かった。
国語、数学、英語、物理、化学、生物、地理、政治、歴史の九つの主要科目のうち、六科目が不合格で、残りの三科目もぎりぎり合格という状態だった。
成績は、まさに「目も当てられない」と表現できるほどだった。
佳津は彼女に答案用紙の間違いを修正するように指示した。
「まず自分で直してみます。間違えたら、指摘してください。」と和音は言った。彼女は佳津との過度な接触を避けたかった。
まだ人との交流に慣れていなかったため、話す速度は普段より遅かった。
佳津はその主張を受け入れ、無理強いはせずに、隣のソファに座って彼女が問題を解き終わるのを待った。
佳津が気付かないうちに、和音はこっそりと回答用紙を隠し、携帯を取り出してスクリーンに文字を打ち始めた。
もし佳津がこの時近づいて見ていたら、画面に打っている文字がすべて英語だと気づいただろう。
しばらくして、佳津は訂正の進捗を確認しに来た。
彼が近づいてきた時、和音は素早く携帯を隠し、問題に集中しているふりをした。
佳津は書いた内容を一瞬だけ見た。
一問しか直していなかったが、その一問は正しく直されていた。
解答の手順には問題がなかった。
進度が少し遅れていたため、佳津は説明しながら和音に修正させることにした。
佳津が近づくと、和音は注意深く答案用紙の下にあった携帯を自分の太ももの上に滑らせた。
佳津は携帯には気づかず、ただ彼女が少し身を縮めたのを見ただけだった。
彼女はとても臆病そうに見えたのだろうか?
佳津は深く考えずに、すぐに問題の説明を始めた。
佳津の説明は非常に上手で、難しいことを分かりやすく伝え、重要なポイントではペンと紙を借りて要点を書き出し、後で復習しやすいようにした。
ペンと紙を取る時、佳津は誤って和音の手に触れてしまい、彼女はすぐに手を引っ込めた。
まるで驚いた子ウサギのような反応を見せた。
佳津は一瞬、自分が少女を困らせたのではないかという錯覚を覚えた。
実際には和音は単に見知らぬ人との接触を拒んでいただけで、特に相手が佳津である場合、この反応は彼女の本能的なものだった。