第21章 1本の手を賭ける

「何してるの?なんで学校にナイフを持ってきたの?」秋田緑は横暴だが、さすがにナイフを学校に持ってくることはなかった。

佐藤和音は秋田緑の質問に答えず、左手にナイフを持って、自分の右手を指さした。

「片手を賭けましょう」

何だって?手を賭ける?彼女は狂ったのか?

少し間を置いて、佐藤和音は続けた。「証拠を出せば、この手を切り落とす。証拠がなければ、あなたの手を切り落とす」

佐藤和音の声は幼さが残り、生まれつき甘い声質だったが、彼女の言葉は本当に恐ろしかった。

彼女は左手にメスを握り、自分の右手首の上10センチの位置に構え、いつでも切り落とせる構えだった。

話し方は柔らかく弱々しいのに、その行動は秋田緑にもない凶暴さを帯びていた。

「頭おかしいの!」秋田緑は佐藤和音が狂ったと感じた。

他の生徒たちも驚いて目を見開いた。佐藤和音の行動があまりにも恐ろしかったのだ。

近くにいた佐藤和音の隣席の生徒は特に怖がって、どうしていいかわからなかった。

「証拠があるなら、怖がる必要はない。失うのは私の手。それとも、証拠がなくて、心が痛むの?」

佐藤和音は澄んだ瞳で秋田緑を見つめた。

秋田緑はその目を見て、一瞬心が動揺するのを感じた。

これはどういう状況?

佐藤和音は相変わらず佐藤和音だった。むしろ以前の傲慢な態度と比べると、今の佐藤和音の話し方や表情はより穏やかになっていた。

でも、なぜ以前の佐藤和音からは感じなかった心の動揺を、こんなに落ち着いた佐藤和音から感じるのだろう?

「私は...」秋田緑は心の中で苛立った。これだけの目が見ている中で、怖気づいたと言えば、面子が丸つぶれだ。

しかし、本当に佐藤和音と賭けをして、最後に負けたら、賭けを守らないのはもっと面目が立たない。

そうなったら、どうやって皆を従わせることができるだろう?

「秋田さん、賭けなんかしないで、学校に報告しましょう。彼女がナイフを持ち込んだって!」

秋田緑の側近が提案した。

秋田緑はそれを聞いて、なるほどと思った!

もう少しで佐藤和音にペースを乱されるところだった!

そして秋田緑は側近たちと一緒に退散した。

彼女たちは一目散に去って行き、高校一年八組の生徒たちはまだ呆然としていた。

これで終わり?

じゃあ、秋田緑は降参したってこと?