佐藤和音は手を伸ばし、軽く佐藤正志の胸を押した。
動きは小さかったが、拒絶の意思は明らかだった。
佐藤正志は眉をひそめたが、仕方なく佐藤和音を下ろした。
佐藤和音は床に足をつけるなり、佐藤正志に「先に寝るわ」と言った。
そして、テーブルの上のものを手早く片付け、全部カバンの中に入れると、部屋に戻っていった。
佐藤和音の逃げる様子は、まるで猟師から逃げる小動物のようだった。
そして佐藤正志は、その獲物を追う猟師だった。
佐藤正志は考えずにはいられなかった。自分は彼女に対して厳しすぎたのではないか?結局、彼女はまだ15歳の少女なのだから……
しかし、すぐにそんな考えは違うと思い直した。
和音が間違ったことをしたのは事実だ。彼が彼女を心配するなら、手を壊され将来を台無しにされた直樹のことを誰が心配するのか?