第29章 秋田緑がまた面倒を起こす

佐藤和音は手を伸ばし、軽く佐藤正志の胸を押した。

動きは小さかったが、拒絶の意思は明らかだった。

佐藤正志は眉をひそめたが、仕方なく佐藤和音を下ろした。

佐藤和音は床に足をつけるなり、佐藤正志に「先に寝るわ」と言った。

そして、テーブルの上のものを手早く片付け、全部カバンの中に入れると、部屋に戻っていった。

佐藤和音の逃げる様子は、まるで猟師から逃げる小動物のようだった。

そして佐藤正志は、その獲物を追う猟師だった。

佐藤正志は考えずにはいられなかった。自分は彼女に対して厳しすぎたのではないか?結局、彼女はまだ15歳の少女なのだから……

しかし、すぐにそんな考えは違うと思い直した。

和音が間違ったことをしたのは事実だ。彼が彼女を心配するなら、手を壊され将来を台無しにされた直樹のことを誰が心配するのか?

直樹の受けた苦しみに比べれば、佐藤和音のここ数日の辛さなど取るに足りないものだった。

直樹のことを考えると、佐藤正志の眉間の皺はさらに深くなった。

直樹のカルテを送ってから、向こうからの良い返事がなかなか来なかった。

そう考えながら、佐藤正志は佐藤和音のことは一旦脇に置き、自分の部屋に戻った。向こうの友人に連絡を取って、この分野の専門家と連絡が取れないか探ってみようと思った。

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翌朝、佐藤正志が佐藤和音を学校に送る時、表情はいつものように冷たかった。

二人は道中一言も交わさず、佐藤正志は運転に専念し、佐藤和音は携帯をいじることに専念していた。

佐藤和音が教室に着いてまもなく、秋田緑がまた彼女のところにやって来た。いつものように二人の取り巻きを従えて。

昨日は佐藤和音のせいで、秋田緑は危うく大変なことになるところだった。

最後は父親の顔を使って、監視カメラを管理する教師から関連する映像を削除してもらうことができた。

今、佐藤和音に再会して、秋田緑は得意げだった。

「佐藤和音、あなた小賢しいわね!監視カメラの映像で私を処分させようとしたの?見なさいよ、今の私に処分なんてされてないでしょう?あなたに私をどうこうできるの?」秋田緑は今日、特に佐藤和音を嘲りに来たのだった。

「学校の監視カメラの保存期間は3ヶ月。7日以内の映像が欠落しているのは、問題があるわ」佐藤和音は顔を上げ、秋田緑をじっと見つめた。