第29章 秋田緑がまた面倒を起こす

佐藤和音は手を伸ばし、軽く佐藤正志の胸を押した。

動きは小さかったが、拒絶の意思は明らかだった。

佐藤正志は眉をひそめたが、仕方なく佐藤和音を下ろした。

佐藤和音は床に足をつけるなり、佐藤正志に「先に寝るわ」と言った。

そして、テーブルの上のものを手早く片付け、全部カバンの中に入れると、部屋に戻っていった。

佐藤和音の逃げる様子は、まるで猟師から逃げる小動物のようだった。

そして佐藤正志は、その獲物を追う猟師だった。

佐藤正志は考えずにはいられなかった。自分は彼女に対して厳しすぎたのではないか?結局、彼女はまだ15歳の少女なのだから……

しかし、すぐにそんな考えは違うと思い直した。

和音が間違ったことをしたのは事実だ。彼が彼女を心配するなら、手を壊され将来を台無しにされた直樹のことを誰が心配するのか?