実は菊地おじいさんがそのような考えを持つのも無理はない。菊地秋次は健康そうに見えるが、実際には一歩間違えれば命を落としかねない人物だった。
菊地家には彼一人しか跡取りがおらず、もし彼が亡くなれば、大きな菊地家は断絶してしまうことになる。
残念ながら、秋次おじいさんは何でも手を出すが、女性だけは避けていた。
その面では白紙のように潔白だった。
実際、年齢だけを考えれば、秋次おじいさんはまだ結婚を急かされる年齢ではなかった。
女性と付き合ったことがないのも普通で、上杉望自身も経験がなかった。
しかし秋次おじいさんは特別な事情があった。
東京にいた時、菊地家は秋次おじいさんのために様々な方法で女性を紹介し、彼の注目を集めようとした。
しかし秋次おじいさんは全く動じなかった。
菊地おじいさんは、秋次おじいさんが気に入りさえすれば、家柄などは問題ではないと公言までしていた。まともな家庭で、品行方正な人であれば良いと。
「お前に任せる」菊地秋次は上杉望に目配せした。
上杉望は憂い顔で、この「お前に任せる」は女性を見つけることではなく、菊地おじいさんへの対応を任されたのだと理解していた。
「秋次おじいさん、私はいつかあなたのおじいさんに殺されそうです」彼は菊地秋次を騙すことができず、東京にいる菊地おじいさんをごまかすしかなかった。
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夜、佐藤和音が書斎にいると、佐藤賢治と佐藤正志が同時に訪ねてきた。
二人が同時に現れたのを見て、佐藤和音は何か重要な話があるのだと察した。
「和音、お父さんが相談したいことがあるんだ」佐藤賢治は眉間にしわを寄せ、佐藤和音との目を合わせられなかった。
佐藤和音は軽くうなずき、表情は真剣で落ち着いていた。
「あの...お前の三番目のお兄さんが...退院することになって...」会社では鬼のように厳しい佐藤賢治だが、娘の前では言葉を詰まらせていた。
「私から説明しましょう」佐藤正志が話を引き継いだ。「直樹が退院することになったんだが、彼の手はまだ治っていない。手術をしてくれる医者が見つからないんだ。病院からは一旦自宅療養した方が彼の精神状態にも良いと言われている。」