第37章 偶然の出会い

大阪市東城区、半山の別荘地区。

ここには古典的で壮大な建物が二棟だけあり、一棟は上杉家、もう一棟は佐藤家のものだった。

この二家は大阪市でも指折りの名家で、いずれも長い歴史を持っていた。

今、二つの別荘の前の道路で小さな事故が起きていた。一台の車が別の車に追突したのだ。

けが人はいなかったが、道路が塞がれてしまった。

帰宅しようとしていた佐藤おばあさんと佐藤和音は道路で足止めを食らった。

家まであと少しだったので、佐藤おばあさんは佐藤和音の手を引いて歩いて帰ることにした。

和音が事故現場を通り過ぎる時、衝突した二台のスポーツカーを目にした。

後ろの車は派手な赤色で、前の車はさらに派手な緑色だった。

緑のスポーツカーの運転手は今、車の窓に寄りかかっていて、その姿は何となくだらしなく見えた。

最初、男の顔は見えなかったが、背が高くて細身の男だということは分かった。

それに、服装も乱れていて、シャツのボタンが何個も留められていなかった。

和音の視線に気付いたのか、男が突然振り向き、和音と目が合った。

あの人だ!

和音はすぐに男を認識した。あの日、病院の廊下でお腹を空かせていた男だった。

菊地秋次は和音を見て、突然口角を上げた。

明らかに彼も和音のことを覚えていた。

和音は慌てて視線を逸らした。

上杉望が近づいてきて、菊地秋次が何かを見つめているのに気付き、その視線の先を追った。

佐藤おばあさんと佐藤和音?

この老人と少女を、秋次おじいさんは何を見ているのだろう?

佐藤おばあさんと和音が佐藤家の門をくぐった後も、菊地秋次の視線は戻らなかった。

上杉望は少し気になって尋ねた:「佐藤おばあさんと佐藤さんに何か問題でもあるのですか?」

「佐藤さん?」菊地秋次は眉を上げ、口角の笑みが深くなった。

「そうですよ、佐藤和音です。佐藤家の唯一の娘さんです。ご存知ないかもしれませんが、佐藤家の三代目には八人の男の子がいて、最後にこの女の子が生まれたんです。家族中が可愛がっているんですよ!おばあさんなんて、口に入れても溶けないかと心配なほど大切にしているんです。」

代々の付き合いがある上杉望は、佐藤家の事情をよく知っていた。

「行こう、佐藤家のご老人を訪ねに。」菊地秋次が突然言い出した。