上杉望はにこにこと佐藤和音に言った。「和音ちゃん、そんな気持ちを持ってくれるだけで十分よ。秋次おじいさんは何も困ってないわ」
実は秋次おじいさんにも足りないものがあった。ただし、それは今の菊地家も天興グループも見つけられていないものだった。この小娘にも手伝えるはずがない。
「私にはたくさんのことができます」と佐藤和音は強調した。
上杉望はもちろん佐藤和音のこの言葉を真に受けなかった。
和音ちゃんがそんな気持ちを持っているのは良いことだけど、秋次おじいさんのことで彼女に手伝えることなんてあるはずがない。
菊地秋次は突然立ち上がり、佐藤和音の前まで歩いてきた。
両手をズボンのポケットに入れたまま、見下ろすように佐藤和音を見た。
「お前の身長は俺のどこまでだ?」
「肝臓の位置です」
質問に答える時、佐藤和音は菊地秋次の胸元をちらりと見上げ、真剣に位置を計算した。
そして急いで視線を逸らした。
男性の胸元を見たことがないわけではない。ただし、普段見る時は相手が横たわっていて、意識が朦朧としている場合もあった。
傍らで上杉望が尋ねた。「普通は胸の位置って言うんじゃない?」
佐藤和音は説明した。「胸の領域は広すぎて、誤差が10センチ以上出ます。肝臓の領域なら誤差を5センチ以内に抑えられます」
まあ、それはそうだけど、それが重要なことじゃない。
重要なのは、身長183センチの菊地秋次の前では、彼女が成長していない子供のように見えることだ。
菊地秋次は言った。「だから子供は等価交換なんて考えるな。俺がお前にくれたものは、素直に受け取っておけばいい。俺はお前に何も求めてないんだから」
佐藤和音は同意しなかった。「あなたは私より数歳年上なだけです」
佐藤和音は今度は顔を上げ、菊地秋次と目が合った。
その澄んだ輝く瞳には、彼女の幼い顔つきからは想像できないような強い意志が宿っていた。
どうやら彼女に何かをさせないと収まらないようだ。
菊地秋次は笑った。
笑い声を聞いて佐藤和音はまた顔を上げてちらりと見た。
もともと顔立ちの整った人が笑うと、言葉では表現できないほど魅力的だった。
ただ、何を笑っているのかは分からなかった。
笑い終わった後、菊地秋次は真剣に佐藤和音の問題について考えてみた。
佐藤和音に何をさせればいいだろうか?