吉野教授と話し終えた後、吉野教授は藤田安広に佐藤和音を送り届けるよう頼んだ。
「藤田、彼女を無事に送り届けなさい。さもないと戻ってこなくていいわよ!」
「分かりました、先生」
先生は宝物を拾い、藤田は雑草扱いだ。
「和音、家の住所はどこ?」藤田は佐藤和音に尋ねた。
「栄光高校へ行って」佐藤和音は言った。
佐藤和音は今なら祖母が迎えに来る前に学校に戻れる。
藤田は詳しく聞かなかった。佐藤和音が学校に戻りたいと言うなら、そこへ送ればいい。
藤田は車を取りに行った。彼の車は外見は控えめだが、内装と装飾は凝っていた。
佐藤和音は、藤田の車のガラスが全て防弾ガラスで、安全性が非常に高いことに気付いた。
知恵医学研究所にいる人は皆並の人間ではなく、藤田も例外ではない。
藤田が佐藤和音を乗せて正門を通過する時、警備員は気まずそうに笑い、佐藤和音を直視することもできなかった。
運転中、藤田は我慢できずに佐藤和音にこう尋ねた:
「そういえば、なぜあなたのイニシャルはF.Sなの?」
「負の十」
藤田は一瞬考え込み、何かを思い出したように笑い出した。
「なるほど、分かった。私も帰ったら略称を変えよう。X1にしよう」
藤田はポイントを理解し、自分にも新しい略称を考え出した。
藤田は佐藤和音を学校まで送り、彼女が校門に入るのを見届けてから方向転換して帰ろうとした。
車が出発しようとした時、生活指導主任が車を運転する藤田を見つけ、慌てて駆け寄ってきた。
「藤田博士!」生活指導主任は興奮した様子で、やや媚びるような態度を見せた。
生活指導主任は藤田のことを知っていた。一年前、彼の親戚が知恵医学研究所の新薬の臨床試験対象者として選ばれたからだ。
そのおかげで彼は知恵研究所の人々と接触する機会を得た。その中には藤田も含まれていた。
生活指導主任は知恵医学研究所の人々を心の底から敬服し、尊敬していた。
まして自分も将来病気になるかもしれないし、知恵医学研究所のお世話になる可能性もある。
だから研究所の人々と良好な関係を築くことは間違いなく正しい選択だった。
藤田は車の窓を下ろし、右手で習慣的に眼鏡を押し上げ、生活指導主任に礼儀正しいが距離を置いた微笑みを返した:「森田先生」
「藤田博士、私のことを覚えていてくださったんですね!光栄です!」