佐藤正志が呆然としている間に、佐藤和音はケーキを佐藤正志の横のテーブルの隅に置くと、自分の用事に戻っていった。
佐藤正志は放っておかれた。
佐藤正志は和音の書斎にしばらく居続け、その間に和音が渡してくれた小さなケーキを食べ、さらに和音の数学の幾何の問題を一つ解いてあげた。
佐藤正志は和音の机の横に置かれた編みかけのセーターを見つけた。彼にプレゼントされたものと同じデザインだが、毛糸の色はグレーで、サイズも彼のものより少し小さめだった。
そのため佐藤正志は、自分が受け取ったマフラーは和音が誰かに注文したものかもしれないが、セーターは間違いなく和音が手編みしたものだと分かった。
そう考えると、佐藤正志の口元は思わず少し上がった。
しかし結局、佐藤正志は和音から「お兄ちゃん」という一言も聞くことはできなかった。