高校三年生の特進クラス。
江口沙央梨は携帯を持って原詩織の机の前まで走ってきた。
「詩織詩織、早く見て!大ニュースよ!」
江口沙央梨の声には隠しきれない興奮が滲んでいた。
「どうしたの?」
原詩織は怪訝そうに江口沙央梨を見て、その後携帯の画面を覗き込んだ。
佐藤和音に関することだった。
「私たちには関係ないことだから、この騒ぎに加わらないほうがいいわ」と原詩織は優しく言い、表情は穏やかだった。
原詩織の反応は比較的冷淡だった。
「見るだけなら騒ぎに加わることにはならないでしょう!ほら見て、この佐藤和音ったら、お金持ちの家柄を鼻にかけて、いつも私たちなんか相手にもならないって顔してるくせに、こんな二流のチンピラと怪しい関係になってるのよ」
江口沙央梨は口を押さえて忍び笑いをした。
「そういうチンピラは厄介そうだから、会ったら距離を置いたほうがいいわ」
原詩織は江口沙央梨にそういう人々から距離を置くように注意を促し、江口沙央梨の言葉に肯定も否定もしなかった。
「本当に厄介よね?見てよ、この告白の横断幕、マジで気持ち悪いったら!今時こんな告白する人いないでしょ?見てるだけで鳥肌が立つわ!」
「もう授業が始まるわ。今日の最後の授業よ」と原詩織は注意した。
「この授業が終わったら、急いで荷物をまとめて校門に見物に行かなきゃ!」
江口沙央梨はこれから起こることを楽しみにしているようだった。
###
栄光高校の校門前には、いつの間にか大勢の人が集まっていた。
下校時間まであと30分もあるのに、すでに多くの人々が立ち止まって様子を窺っていた。
下校時間になったら、どんな状況になるか想像に難くなかった。
写真や動画を撮る人もいた。
その中には森村晃の子分たちもいて、森村晃にリアルタイムで状況を配信していた。
「晃さん、見えましたか?すべての準備は整いました。あとは女主役の登場を待つだけです!」
「ああ、よくやった。輝に言っておけよ。あのクソ女が出てきたら、できるだけ近づけって。お前たち他のやつらは、二人の親密な写真を撮るチャンスを狙え。後で俺がまとめサイトを使って大々的にネットに流すから!」
携帯の向こう側にいる森村晃は興奮した表情を浮かべていた。
輝というのは、バラの花を持って佐藤和音に告白すると称する不良青年のことだ。