そういうわけで相手が彼女とマッチングされたのだ。
しかし、研究所の記録には、彼女の実践経験は記載されていなかった。
通常、彼女は助手として始め、一定数の手術経験を積んでから、執刀医として任せられるはずだ。
研究所が直接彼女に執刀させるのは通常の手順に反している。
【実はこの件については、研究所の教授たちが議論した結果なんです。この症例の顕微鏡手術は難度が高いものの、手術のリスクは低く、あなたの能力を十分に示せると判断しました。もちろん、手術中は研究所の他の教授も立ち会い、手術が成功しなくても不測の事態が起きないよう確保します。】
簡単に言えば、相手を佐藤和音の実力を示すための実験台として扱ったということだ。
成功すれば、佐藤和音は名を上げることができる。
失敗しても、死人は出ないし、状況が悪化することもなく、説明がつく。
このようなことは、一般の機関ではできないが、彼らの研究所なら本当にやりかねない。
そして、そのリスクを研究所は十分に負担できる。
もちろん、これは彼らの佐藤和音への信頼の表れでもある。
【カルテを送ってください。】
佐藤和音はとりあえず症例の内容を見ることに同意した。
【はい、今すぐメールボックスに送ります。】
すぐに、研究所専用のメールボックスに未読メールが一通届いた。
佐藤和音が開くと、佐藤直樹のカルテだった。
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土曜日の朝早く、山田燕は佐藤隼人を連れて本邸にやってきた。
以前、佐藤隼人は気が重くてここに来ていた。母親は祖父母の前で好印象を得てほしがっていたが、彼はそのような意図的な計らいが好きではなかった。
しかし今は、彼の気持ちは全く違っていた。
今日は特別に和音ちゃんが編んでくれたセーターを着てきた。
すごく柔らかくて、すごく暖かい!
和音ちゃんが手編みしてくれたと思うと、佐藤隼人は気分が最高によくなり、太陽が輝く晴れ渡った空のようだった。
山田燕と佐藤隼人が佐藤家本邸に着いたとき、ちょうど佐藤賢治一家も到着したところだった。
佐藤賢治、岡本治美、佐藤正志、そして佐藤直樹までもが来ていた。
山田燕が最も意外に思ったのは佐藤直樹の出現だった。
彼が外出を承諾するなんて?しかも佐藤和音のいる本邸に?
山田燕は一瞬考えて、この四人家族の来意を察した。