第117章 人肉サンドバッグ(1)

「えっ?」

上杉望は、さっきまで菊地秋次がアイドルグループを目が離せないほど見つめていたのに、なぜ認めないのだろうと思った。

上杉望が少し考え込んでいると、気がついた時には佐藤和音と菊地秋次は既に先に行ってしまっていた。

「おい……二人とも……また置いていくなよ……少しは情けをかけてくれよ……」

ちょっとぼーっとしていただけなのに、この二人は情け容赦なく彼を置き去りにしたのだ!

ここは森村晃のアパートがある団地だ。

今夜、森村晃は菊地秋次が佐藤和音のために用意した生贄だった。

三人が森村晃の家の前に着くと、ドアの前では菊地秋次のボディーガードが既に待っていた。

彼らが来るのを見て、すぐにドアを開け、中にいる森村晃は抵抗する余地もなかった。

菊地秋次たちが入ってくるのを見て、森村晃は必死に笑顔を作り、頭を下げた。

「秋次おじいさん、望さん、何かございましたら一言おっしゃっていただければ、わざわざお越しいただかなくても……」

森村晃の顔の笑みは、かなり無理して作ったものだった。

先日の五千回の縄跳びで、数日間筋肉痛に苦しみ、まるでミイラのように歩き、トイレにも座れない状態だった。

数日間悲鳴を上げ続け、やっと回復し始めたところだった。

そこへ菊地秋次がまた現れたのだ。

森村晃は一瞬にして気が滅入った。

この数日間、大人しくしていたはずだ。どこにも行かず、何もしていない。

秋次おじいさんはおろか、佐藤和音にも近づかず、彼女の名前すら人前で口にしていなかったのに!

上杉望は森村晃のこの様子を見て笑いたくなったが、人道的な精神から、笑いをこらえなければならなかった。

上杉望は森村晃に告げた:「森村くん、前回は秋次おじいさんの件だったが、今回は和音が来たんだ。前回、和音を陥れた件について、まだ謝罪していないだろう」

森村晃は目を見開き、自分の耳を疑った。

つまり、前回の五千回の縄跳びは秋次おじいさんの分の決着で、佐藤和音の分はまだ別に清算が必要だというのか?

森村晃は発狂しそうだった。

自分は以前、横柄な振る舞いをしていたと自覚していたが、目の前の菊地秋次と比べると、自分はまだましだったと感じた。

少なくとも、数日前の一件の二次清算のために、夜中に突然人の家に押しかけたりはしなかった。