藤田安広が引き受けると、研究所の関係者は千葉佳津と千葉佳津の母親が入院している病院に連絡を取り始めた。
その時、千葉佳津は研究所から離れるバスに座っていた。
電話を受けて、しばらく呆然としていた。
「千葉さん、千葉さん、お電話聞こえていますか?」
「はい、どうぞ」千葉佳津は我に返り、興奮を隠せない声で答えた。
「お母様を当研究所に転院させる必要がございます。患者の移送と手術の手続きについて、できるだけ早くご対応いただけますでしょうか」
「はい、分かりました」
「千葉さん、他にご質問はございますか?もしなければ、お母様の転院手続きの際に改めてご説明させていただきます」
「一つ質問してもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「なぜ突然、母の症例を引き受けていただけることになったのでしょうか?」
「申し訳ございません。私はただ連絡係を担当しております。症例を引き受けた理由については、研究所の研究員が決定したことで、詳しくは存じ上げません」
「分かりました。ありがとうございます」
電話を切った後も、千葉佳津には研究所が突然母親の症例を引き受けた理由が分からなかった。
なぜか、この問題について考えているとき、先ほど研究所の入り口で佐藤和音に出会った場面が目の前に浮かんだ。
しかし千葉佳津には、そこにどんな関連があるのか想像もつかなかった。
知恵研究所は、どんな財閥にも顔を立てることはない。佐藤家や上杉家のような名家でさえ、研究所の判断に影響を与えることはできない。
ましてや佐藤和音一人が、研究所の決定に影響を与えられるはずがない。
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月曜日、佐藤和音はいつも通り登校した。
教室に着くと、大井心は緊張した表情を浮かべていた。
「和音、大変よ大変!月例テストの結果が今日出るの!」大井心は佐藤和音を見つめ、憂鬱そうな表情を浮かべた。
成績が出る前は自分を騙すことができたが、成績が出てしまえば現実と向き合わざるを得なくなる。
大井心は散々悲鳴を上げ、散々緊張したが、結局避けることはできなかった。
テストの答案用紙が一科目ずつ配られていく。
大井心は自分の科目ごとに赤点がついた成績を見て、心が血を流すような思いだった。
「寒風が吹き、雪が舞い、私の心は、とても疲れている」
大井心は机に伏せて嘆いていた。