第121章 初出勤(1)

千葉佳津は暗い目で再び車内を見つめた。奥野実里は態度を固く決めており、話し合いの余地は全くなかった。

千葉佳津は相手の態度を確認した後、一歩後ずさりした。

千葉佳津は佐藤和音の出現に疑問を抱いていたが、自分は佐藤家にとって、ただの雇われ家庭教師に過ぎないと考えていた。

佐藤和音と知恵研究所との関係について、彼女が話してくれるなら話してくれるし、話したくないなら自分には追及する権利もないし、まして彼女に助けを求める権利もない。

道を塞いでいた人がいなくなったのを見て、奥野実里はアクセルを踏み、車を研究所の中に入れた。門が閉まると、外の人がどう思おうと彼女には関係なくなった。

奥野実里は車を停めた後、先に降り、助手席のドアの横で佐藤和音が降りるのを待った。

佐藤和音が降りられないかもしれないと心配だった。

しかし、佐藤和音の自尊心を傷つけたくなかった。

そのため、奥野実里は横で見守っていた。もし降りるのが困難そうなら、抱えて降ろすつもりだった。

佐藤和音は奥野実里に抱えられる機会を与えず、そのまま車から飛び降り、安定した着地を見せた。

乗るのは少し大変だったが、降りるのはそれほど問題なかった。

藤田安広は外の音を聞いて、奥野実里と佐藤和音が戻ってきたことを知り、玄関まで出迎えに走った。

一緒に来たのは何人かの年配の教授たちで、最初に佐藤和音が会った吉野教授の他にも何人かの教授が来ていた。

普段、教授たちは自分の実験室に籠もっていて、人だかりに加わる習慣はなかった。

しかし今朝、佐藤和音が研究所に報告に来ると聞いて、いつもの研究に没頭する状態から一変し、佐藤和音を待ち構えていた。

佐藤和音が到着すると、年配の教授たちは一人一人が研究で大きな breakthrough を達成したかのように興奮していた。

藤田安広は奥野実里を見て、言おうとしていた言葉を全て飲み込んだ。

本来なら和音さんを迎えに行くはずだった自分が、奥野実里に背負い投げを食らったことを思い出して…

みんなが研究所に入ると、年配の教授たちは佐藤和音を取り囲んで質問攻めにした。

質問は主に佐藤和音が最近提出した審査中の論文についてだった。

藤田安広どころか、奥野実里までもが端に追いやられてしまった。