第146章 秋次おじいさんのお見舞い(1)

奥野実里は小田百蔵の方を振り向いて、「小田さん、今日は仕事の話はしないって言ったでしょう」

「いや、手元に何件か症例があって、ちょっと意見を聞きたかったんだけど」

小田百蔵は取り入るような表情を浮かべた。

人に頼み事をする時は、面子なんて関係ない。

藤田安広は小田百蔵をしばらく見つめてから、「どうせ人を待っているんだし、この時間を使って見てみましょうか」

藤田安広は小田百蔵も大変だろうと思い、それに今この病室の前に立っているだけでは何もすることがないと考えた。

奥野実里はもう一度病室の方を気にかけるように見てから、藤田安広と一緒に小田百蔵のオフィスへ向かった。

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しばらくして、上杉望と菊地秋次が到着した。

この時、病室には佐藤明人が佐藤和音に付き添っているだけで、岡本治美は佐藤おばあさんに呼ばれて話をしていた。おばあさんには長男の嫁とじっくり話したいことがあるようだった。

上杉望が入室するとすぐに佐藤明人の姿が目に入った。彼は佐藤和音と楽しそうに会話をしていた。

この時の佐藤明人は身なりを整え、清潔感があってさわやかでハンサムだった。

上杉望は足を止めた。

この男性は某アイドルグループのメンバーじゃないか?

上杉望は彼の名前は思い出せなかったが、その顔は印象に残っていた。

確か、ネット上での彼の評価は:ルックス最高、声がいい、歌唱力抜群、ダンスも素晴らしい。

これは数多くのイケメンアイドルの中でもかなり高い評価だった。

和音様はどういう状況なんだ?

前回、森村晃を探しに行った時も、和音様があのアイドルグループを見つめていたのを覚えている。

今や二人はとても親しげな様子で、その親密さは普通の友人の範囲を超えているように見えた。

上杉望のこれまでの佐藤和音との付き合いから分かるのは、和音は他人との身体的接触を好まず、近づきすぎると自ら距離を取るということだった。

佐藤和音との距離を20センチまで縮められる関係というのは……

深く考えさせられる。

上杉望が佐藤和音と佐藤明人を見ている時、二人も彼の方を見た。

上杉望が佐藤明人を認識できなかったように、佐藤明人も上杉望のことが分からなかった。

佐藤明人は佐藤家の子供たちの中で本家にいた時間が最も短かった。