菊地秋次の言葉には、他人の不幸を喜ぶような響きがあった。
上杉望は心の中で思った。なるほど、秋次おじいさんが和音様に会いに急いできたのは、前回和音様が肉を食べさせてくれなかった仕返しのためか。
「今も食べられませんよ」と佐藤和音が答えた。
「俺が食べたいと思えば、お前に止められる筋合いはない」
「絶対に食べちゃダメです」佐藤和音は強い口調で言ったが、声は柔らかく、全く威圧感がなかった。
病気なのに医者の忠告を聞かないのは、自殺行為と変わらない。
菊地秋次のような状態では、担当医を怒り死にさせかねない。
実際、原作の菊地秋次もまた、自分の命を軽んじる厄介な存在だった。
「自分の体も管理できないくせに、俺のことまで管理しようとするのか?」
傍で聞いていた上杉望は、今日の菊地秋次の佐藤和音に対する態度が、いつもとは少し違うように感じた。