佐藤隼人は内心少し怖気付いていた。結局、彼は佐藤明人との戦いで一度も勝てていなかったのだから。
「今回は運が良かったな。次は本気で叩きのめしてやるからな」佐藤明人はまだ佐藤隼人と喧嘩したい気持ちでいっぱいだった。
しばらくして、佐藤明人は何かと理由をつけて佐藤隼人を外に連れ出した。
兄弟は廊下の端で話を始めた。
「母さんは一緒に来なかったの?」佐藤明人は佐藤隼人に尋ねた。
母親に会えると思っていたが、二人が会えば、また喧嘩になる可能性が高かった。
「ううん、母さんは運転手に放課後僕を病院まで迎えに来るように電話しただけ」
山田燕は来なかった。彼女は老夫人の前で佐藤明人と口論になりたくなかったのだ。
山田燕は面子を重んじる人で、特に老夫人の前での体面を気にしていた。
佐藤家に嫁いできた時から、彼女はその体面を争ってきた。自分のためだけでなく、佐藤家の他の二人の義姉とも比べていた。
息子たちとの間に確執があっても、その問題を老夫人の前に持ち出すことはなかった。
「魔術師になる件は今どうなってる?」佐藤明人は弟が自分の夢と、やりたいことを持っていることを知っていた。
「母さんは絶対に認めてくれないよ。僕もどうしたらいいか分からない…」
この件について佐藤隼人も迷っていた。
佐藤明人は佐藤隼人の肩を叩いた。「あまり考えすぎるな。本当に好きならやればいい。高校卒業したら、家から遠い大学を選べばいい。俺と次兄さんが経済的な支援はするから、安心して好きなことをやればいい。心配するな」
「母さんは、うちの会社を継ぐ人がいなくなるって言うんだ。兄さんたちは自分のやりたいことをしに行って、僕は…」
佐藤隼人は心の中では自分の好きなことをしたかったが、母親の考えも完全に無視するわけにはいかなかった。母親が悲しむ姿を見たくなかったのだ。
「会社を継ぐとか継がないとか、佐藤家はまだ分家していないんだぞ。父さんと伯父さんが経営しているのは佐藤家の会社だ。将来は全部正志に任せて、俺たちは株を持って、彼に働いてもらって配当金をもらえばいいじゃないか。経営権なんて必要ない」
この理屈は佐藤隼人にも分かっていた。父もそう言っていたが、母は認めなかった。