「和音、お前……どうしたんだ?」佐藤隼人は声を絞り出すように言った。
「動画」と佐藤和音は言った。
「何?」
「あの動画、私が持ってる。お兄ちゃんは、悲しまなくていい」
「お前……その動画のことを……お前が……」
佐藤隼人は自分の耳を疑った。昨夜見た動画を和音ちゃんが持っているだって?
彼女はもうその証拠動画を持っているのか?
しかも和音ちゃんは自分が動画を見たことを知っているのか?
「お前……俺が動画を見たことも知ってるのか?」
「うん」佐藤和音は頷いた。
「ごめん……」佐藤隼人の目が赤くなった。「俺はお前を守れなかった……お兄ちゃんなんて資格ないよ」
「違う」と佐藤和音は言った。
佐藤隼人は俯いた。「和音、俺のこと恨んでるだろ。真実を知って、でも隠すことを選んだ。その決断をした時点で、もう俺はお前の兄として相応しくない」
佐藤隼人は自分の選択が憎むべきものだと分かっていた。
今の自分が最低だとも思っていた。
それでも、この選択をした。
「大丈夫」と佐藤和音は言った。
躊躇なく、簡潔で明確だった。
佐藤隼人は呆然とした。「和音、お前……」
「お兄ちゃんが悲しまないなら、許す」
佐藤和音の言葉は単純で、明確で、断固としていた。
佐藤隼人の心は鈍器で強く打たれたかのようだった。
重く、深く、痛みがあり、その痛みの後には新鮮な血が流れた。
佐藤和音は一瞬止まり、まだ言いたいことがあるようだった。
彼女は口を開き、不慣れな声で言った。「お兄ちゃん」
「お兄ちゃん」という言葉が佐藤和音の口からゆっくりと出た。
これは佐藤和音が初めて「お兄ちゃん」と呼んだ時だった。
その一声の「お兄ちゃん」は佐藤隼人の心に突き刺さり、彼の涙は止まらなくなった。
再び佐藤和音の白い小さな顔、輝く目を見つめると……
昨夜築き上げたばかりの心の壁が一瞬で崩れ、瓦礫と化した……
妹、これは彼の妹、彼を信頼する妹……
一生大切にし、愛おしく思いたい妹……
佐藤隼人は笑い出した、まるで馬鹿のように。
その笑顔は暗い影を払った。
笑いながら、目には涙が溢れていた。
涙が流れ落ち、佐藤隼人は腕で素早く涙を拭った。