「はい、はい」教導主任は佐藤和音に対してもう言葉がなかった。「じゃあ、頑張ってね!」
これ以上の言葉は、もう口に出せなかった。
教導主任も佐藤和音にこれ以上時間を費やしたくなかった。
成績が発表される時、この生徒のことは無視すればいい。その時間があるなら、学校の優秀な生徒たち、特に高校三年生の特進クラスにいる数人のトップ生徒たちの面倒を見た方がいい。彼らこそが今回の化学オリンピックで入賞する可能性が最も高い生徒たちなのだから。
教導主任は来ては去り、言葉は少なかったものの、明らかに佐藤和音を快く思っていない態度を示していた。
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原詩織は化学オリンピックに申し込んでから、一心不乱に問題を解くことに没頭していた。
学年主任が参加申込者に配布した試験対策問題集を、原詩織は試験前に全て終わらせようと決意していた。
高校三年生の原詩織にとって、これは更なる負担となった。
彼女は毎日深夜1時まで勉強し、すっかり疲れ果てた様子だった。
原詩織の苦労を原おばさんは目にし、心を痛めていた。
しかし、娘に夜食を作る以外に何も手助けできなかった。
原おばさんは原詩織に夜食を持って来た後、もう一人分を余分に持ってきた。
「詩織、これを三少爺様に持って行ってあげて」
最近、長男様が三少爺様を身近に置いており、さらに三少爺様の手術も予定に入っていたため、三少爺様と娘が接する時間が減っていた。
原おばさんは、時間が経つにつれて二人の関係が薄れていくことを心配し、わざわざ夜食を作り、原詩織に直接佐藤直樹に届けさせようとした。
原詩織は母親が用意した夜食を見て、少し躊躇した。
最近、彼女と佐藤直樹の関係は確かに少し疎遠になっており、彼女が送ったメッセージにも返信がなかった。
最初、原詩織は前回のプレゼントの件が発覚したのではないかと疑っていた。
しかし、ご主人様もご夫人も長男様も母親に何もしていないことから、原詩織は次第に安心するようになった。
もし本当に発覚していたら、ご主人様とご夫人、そして長男様が何らかの態度を示さないはずがない。
だから原詩織は、最近の佐藤直樹は忙しいのだと理解するしかなかった。
原詩織は少し迷った後、母親が用意した鶏スープ入りワンタンを持って、本館に向かった。