佐藤和音は開けたドアの向こうに佐藤正志の姿を見て、疑わしげな目で彼を見つめた。
ドアの前に立つ佐藤正志は、いつもの通り深い色の服装で、端正な顔には憂いの色が浮かんでいた。眉間には皺が寄り、深い眼差しをしていた。
彼は何か心配事があるように見えた。
「和音」佐藤正志が口を開き、低い声で和音の名を呼んだ。
「うん」一言返事をした後、和音は再び下を向いて仕事を続けた。
「化学コンテストで一位を取れて、おめでとう」佐藤正志は続けて言った。
「ありがとう」和音は答えた。
佐藤正志が今この時間に来た理由が和音にはよく分からなかった。さらに、もし彼が監視カメラの映像の件を持ち出したら、どう対応すればいいのかも分からなかった。ただ、これまでの佐藤正志との付き合い方を続けるしかなかった。
佐藤正志は和音との間に明らかな距離感を感じていた。
無視されているわけでもなく、相手にされていないわけでもない。ただ純粋に、よそよそしく形式的になっただけだった。
「お父さんとお母さんがお祝いしたいって。何か欲しいものある?」
「いりません、ありがとう」和音は優しい声で答えた。彼女は良い成績を取ったからといって、特別な褒美やお祝いが必要だとは思っていなかった。彼女にとって、価値のある人間でなければ、生きている資格はないのだから。
佐藤正志には分かっていた。和音は不機嫌なわけではないが、ただ形式的な対応をしているだけだということが。
そしてその形式的な対応の裏には、距離感があった。
佐藤正志は続けて言った。「お父さんとお母さんは既に下にいるよ。お母さんが何か持ってきてくれたんだ」
和音は手を止め、しばらく考えてから立ち上がり、彼について階下へ向かった。
下の居間では、佐藤賢治と岡本治美夫妻が階段の方を熱心に見つめていた。
和音の姿を見ると、夫妻の目は優しく、そして申し訳なさそうな表情に変わった。
かつては最も大切にしていた娘だったのに、この頃は彼らのミスで多くの辛い思いをさせてしまった。
佐藤賢治と岡本治美の二人の視線に直面して、和音は思わず足を止めた。
そんな視線は彼女にとって、見知らぬもので遠い存在だった。
和音はどう対応すればいいか分からず、ただ立ち止まって、やや無表情に彼らを見つめるしかなかった。