ごまかしきれないと分かり、藤田安広は先ほど佐藤直樹のお尻に注射した件を小声で奥野実里に話した。
「マジかよ!早く言えよ!一本じゃ足りないでしょ!もっと用意しなきゃ!」
奥野実里は病室に向かおうとした。
藤田安広は慌てて奥野実里を引き止めた。「恵子姉、落ち着いて!こういうのは一回二回で十分ですよ。多すぎるのはよくありません。相手だって馬鹿じゃないし、お兄さんとお母さんもいるんですから!それに、この人は今とても価値があるんです。和音さんの手術のために取っておかないと。手術が成功すれば、和音さんは名を上げられますから。」
奥野実里は考え込んで、少し納得した様子だった。
「まあいいわ、今は見逃してあげましょう。」奥野実里は言った。「でも、せっかく来たんだから、手さえ傷つけなければ、証拠も残らないように気をつければ、ちょっとした苦しみくらいなら味わわせてもいいでしょう?」
「恵子姉、何を考えているんですか?」
藤田安広は不吉な予感がした。
「なんでもないわ。ただ、研究所の山崎さんが以前漢方を研究していたことを思い出しただけ。」
「恵子姉、まさか……」藤田安広は何かを察したようだった。
「漢方と西洋医学を組み合わせれば早く治るでしょう!」奥野実里はすでに考えがまとまっていた。
それを聞いて、藤田安広の金縁眼鏡の奥の目が狡猾な光を放った。「人参や当帰、黄耆なんかは体を補うのにいいって聞きましたよ。普段のスープにも使えるみたいです。」
藤田安広は学者然として真面目に言った。
「そんなの素人よ。黄連なんかの方が効果的でしょう!それに私が聞いた話では、ムカデも体に良くて、漢方でよく使われる薬材なのよ。」
効能については詳しく知らなかったが、黄連の苦さは藤田安広もよく知っていた。
「恵子姉の言う通りです!まさにその通りです!」藤田安広は即座に奥野実里のご機嫌を取った。
「和音ちゃんには内緒よ!」奥野実里は念を押した。
「ご安心を。」二人はこういう時はとても息が合っていた。
「じゃあ何を待ってるの?山崎さんに処方箋を書いてもらいに行きましょう!」
奥野実里は藤田安広を引っ張って歩き出した。
「恵子姉、ゆっくり、ゆっくり……」
藤田安広は奥野実里に引っ張られ、仕方なく彼女について走った。
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佐藤直樹の入院手続きは完了した。