「もういいから、服を持ってきて」
菊地秋次は面倒くさがっていた。それに、運動で汗をかいた後なので、シャワーを浴びたかった。さっぱりと体を洗えないのは本当に気持ち悪い。
菊地秋次は服を着終わると、佐藤和音が何かを考え込んでいる様子に気づいた:
「また何を考えているんだ?おじいさんはもうお前の言う通りにしただろう?シャワーを浴びないならそれでいい」
この少女が眉をひそめないように、最後のシャワーを浴びないという条件まで、菊地秋次は妥協したのだった。
「傷跡が残る」と佐藤和音は小声で言った。
「傷跡が残ろうが何だっていいだろう?」
菊地秋次はそんなことを気にしていなかった。
男の体に傷跡が一つや二つあるのは当たり前のことじゃないか?
「よくない」傷跡が残らないなら、残らない方がいいに決まっている。
「なんだ?おじいさんに傷跡があるのが醜いと思うのか?」
佐藤和音はすぐには答えず、傷跡を消す方法について考えていた。
年齢とともに、傷が治った後に残る傷跡はより目立つようになる。菊地秋次のような年齢で、これほど深い傷なら、確実に傷跡が残るはずだ。
佐藤和音は深く考え込んでいた。
佐藤和音が考え込んでいる間、菊地秋次が彼女を見つめる目つきが段々と悪くなっていることに気付かなかった。
菊地秋次は佐藤和音の沈んだ表情を見て、本当に傷跡を醜いと思っているのだと思い込んだ。
途端にイライラし始めた。
上杉望までもが、佐藤和音が菊地秋次の手の傷跡を嫌がっていると思い込んでいた。
上杉望は傍らで佐藤和音に説明し、菊地秋次の立場に立って:「あの、和音様、実は男の人の体に傷跡があっても別に悪くないんですよ。むしろかっこいいくらいで、それにこの傷もそんなに深くないし、腕にあるので大きな問題じゃありません。傷跡が残っても、そんなに怖くないと思います」
さっきまで彼が言うところの大したことのない傷のことで眉を焦がすように心配していたのは誰だったのだろう。
「治してあげたいの」と佐藤和音は説明した。
佐藤和音は傷跡消しクリームのことを思い出した。以前、何度も実験を重ねて作り出したもので、効果は抜群だった。その配合は彼女が以前所属していた研究所が化粧品会社に高額で売却していた。