「防水ガーゼテープを持ってきてもらって」上杉家の救急箱にはそれがなかった。
始めから終わりまで、佐藤和音の反応は冷静そのものだった。
彼女にとって、目の前の菊地秋次は、これまで治療してきた何百何千もの患者と何ら変わりはなかった。
彼の露わな上半身も、ただの普通の体に過ぎなかった。
むしろ菊地秋次という大の男が、耳を二度も赤らめていた。
菊地秋次のボディーガードは佐藤和音の言葉を聞くと、すぐに防水ガーゼテープを買いに行かせた。
佐藤和音は医者が患者に注意するような口調で菊地秋次に言った:「次は気をつけてください」
「はい」菊地秋次は答えた。
「今回の怪我は、しっかり養生してください」
「はい」菊地秋次はきちんと答えた。
傍で聞いていた上杉望は、感動で涙が出そうになった。