藤田安広は佐藤直樹の質問に答えた。「佐藤さん、遠慮なさらないでください。私たちファズル先生の治療は有料で、料金は公開されており、誰に対しても同じです。もし佐藤さんが感謝の気持ちがおありでしたら、お会計の際に少し多めにお支払いいただくことをご検討ください」
そんな形式的なことを言う必要はない。その時間があるなら和音さんからもっと料金を取ればいい。
結局、何度お礼を言っても、お金にはならないのだから。
「ええ、もちろんです」佐藤直樹は快く承諾した。
この件については、すでに父と兄から相談を受けていた。
もしこの手術が本当に成功すれば、主治医のファズル先生に相応の謝礼をするつもりだった。
藤田安広はさらに付け加えた。「それと、佐藤さん、手が良くなったら、周りの人々や出来事に冷静に向き合ってください。恨みを抱かないように。たとえ良くないことがあっても、人生への希望を捨てないでください。あなたを心配している人たちのことを忘れないでください」
「分かりました」佐藤直樹も約束した。
今は希望を持っているので、もう以前のように物事を深く考えすぎたり、憎しみを抱いたりすることはないだろう。
しばらくして、検査が終わり、佐藤和音は部屋を出た。
佐藤直樹はしばらく放置された後、ようやく誰かが来て眼帯を外し、病室に連れ戻された。
佐藤和音は佐藤直樹の手の状態を確認した後、別の病室にいる千葉佳津の母親のところへ向かった。
和音は午後ずっと実験室にいた。
千葉佳津の母親の容態を藤田安広と確認する以外に、和音は以前から何度も実験で効果が確認された傷跡消しクリームを調合した。
今は、この処方のクリームの臨床試験を行い、臨床データを収集する必要があった。そうすれば審査承認を得て、特許を申請することができる。
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土曜日、大井心は補習授業があった。場所は彼女の家のすぐ近く、徒歩10分のところだった。
大井心が授業を終えた時には、すでに日が暮れていた。
補習校を出て路地に入ったとき、突然、袋が空から降ってきて、大井心の頭にかぶせられた。
「あっ!」突然の出来事に大井心は悲鳴を上げた。
目の前は真っ暗で、何も見えなかった。
そして何かの力で路地の奥へと引きずられていった。
大井心は周りに多くの人がいることを感じ、誰かが彼女を乱暴に引っ張っていた。