「そうだ佐藤じじい、後でとても珍しい蘭の展示があるって聞いたんだけど、今日のメインイベントらしいよ。興味ないかい?」珍しい蘭の話になると、金山社長は再び興奮し始めた。
「興味ないね」
「それはあなたらしくないな。いつもは一番気にしているじゃないか?」
今日の佐藤おじいさんは少し様子が違っていた。
金山社長だけでなく、傍らにいた佐藤賢治と岡本治美夫妻も不思議に思った。
おじいさんがどれほど蘭が好きかは彼らもよく知っていた。珍しい品種や新品種が出てくれば、必ず確かめに行くのが常だった。
「買う気がないだけで、興味がないとは言っていないだろう」佐藤おじいさんは言葉尻を捉えた。
それに何か違いがあるのだろうか?金山社長には理解できなかった。
佐藤おじいさんは金山社長の困惑した様子を見て、少し得意げな表情を浮かべた。
休憩所で少し時間を過ごした後、佐藤家の一行は金山社長と共に最後のメインステージへと向かった。
まもなく公開される神秘的な展示品は、大きなガラスケースに覆われていた。
ガラスケースの外側は赤い布で覆われていた。
展示会の司会者は既に位置についていた。
司会者は今日のメインの展示品の紹介を始めた。
「これは新品種の蘭で、花の形が美しく、香りも独特です。現在、世界に一株しかありません」
この一言だけで、会場にいる全ての人の好奇心を掻き立てるのに十分だった。
長い待ち時間の後、ついに展示会のスタッフが赤い布を取り除いた。
人々の目の前に現れたのは新種の蘭で、花の色は紫色で、有名な素冠荷鼎と同じく蓮弁蘭だった。
素冠荷鼎の白色とは異なり、この株は気品のある優雅な紫色をしていた。
形は優美で、色は独特だった。
たちまち会場の蘭愛好家たちの目を引きつけた。
金山社長は感嘆の声を上げた。「美しい、本当に美しい。蓮弁蘭の形は優美で典雅で、紫色は気品があって華やかだ」
佐藤おじいさんは評価を口にしなかったが、周りの人々の賞賛を聞きながら、隠しきれない誇らしげな表情を浮かべていた。
佐藤賢治は自ら佐藤おじいさんに尋ねた。「お父さん、この蘭がお気に入りですか?後でオークションがあれば、私が落札しましょうか」
「いらない」佐藤おじいさんの返事は断固としていた。