車から薄い色のチェック柄のコートを着た、背の高い、端正で穏やかな顔立ちの男が降りてきた。
佐藤一輝だった。
佐藤正志と佐藤一輝は顔立ちにそれほど似ているところはなく、正志は冷たい印象で、一輝は穏やかな印象だった。
兄弟が顔を合わせ、目が合った瞬間、言葉を失った。
兄弟の間では時として言葉は必要ない。
佐藤正志と佐藤一輝はリビングに座った。
佐藤正志は最近起こった出来事を佐藤一輝に話した。
佐藤一輝は話を聞き終えると、長い間口を開かなかったが、目は真っ赤になっていた。
「一輝」佐藤正志は佐藤一輝が長い間口を開かないのを待ちきれず、声をかけた。
言いたいことがあるなら直接言えばいい。
佐藤正志は佐藤一輝が怒るだろうことを知っていた。妹の面倒を見切れなかったことに、妹に辛い思いをさせてしまったことに。