夜になって、佐藤和音は軟膏を持って隣の上杉家へ行った。
菊地秋次は佐藤和音の傷跡除去クリームの最初の臨床試験者となった。
それまでは、佐藤和音の全ての実験データは動物実験のものだった。
規定によると、十分な動物実験データを得てから、人体に使用できることになっていた。
佐藤和音が菊地秋次を最初の人体実験の対象にする勇気があったのは、この処方が彼女がタイムスリップする前に既に広く使用されており、実際の人体実験データが十分にあったからだ。
佐藤和音は上杉望に菊地秋次の傷に軟膏を塗るように頼んだ。
菊地秋次の傷はまだ新しく、軟膏を使用するのに良いタイミングだった。
佐藤和音の要求で、上杉望はまた一つの「初めて」を経験することになった——初めて人に薬を塗ることだ。
菊地秋次は腕を出し、その瞳で佐藤和音を見透かすように見つめた:
「この軟膏は君が調合したのか?」
「はい」佐藤和音は正直に答えた。
それを聞いて、軟膏を塗っていた上杉望の手が震えた。
和音様が自分で調合したの?問題が起きないだろうか?
秋次おじいさんの腕は貴重なのに!もし何か問題が起きたら……
上杉望は考えるのも怖かった。
菊地おじいさんと菊地おじさんの恐ろしい眼差しを思い出しただけで、上杉望は足が震えた。
上杉望は心の中で祈り始めた:南無阿弥陀仏、神様お願いです、秋次おじいさんがこの軟膏を塗って何も問題が起きませんように!傷跡が消えなくてもいいから、秋次おじいさんが無事でありますように!
「この軟膏に投資家は必要か?」菊地秋次が尋ねた。
「まだです」
まだ臨床実験の段階だった。
身近な人に使ってもらうのはいいが、大規模生産となると、もっと多くの臨床実験データが必要だった。
それから佐藤和音は特許と許可を申請し、規模化生産を始める必要があった。
だから投資の件はまだ先の話で、佐藤和音はまだ考えていなかった。
「私が投資しようか?」
「よくないです」佐藤和音は断った。
「ん?」
「他の関係があるので、ビジネスには適していません」
佐藤和音は、ビジネスに感情を持ち込むべきではないと考えていた。
お金の話は感情を傷つけると言われているからだ。
佐藤和音は感情の問題の扱い方は分からなかったが、お金を稼ぐことの扱い方は分かっていた。