第303章 みんな和音と契約したがる(1)

彼女は原詩織がエンターテインメント業界に進出しようとしているなら、服装やスタイリングに気を配る必要があることを知っていましたが、原詩織にはそんな高級ブランドの服を買うだけの余裕はないはずでした。

金山若夫人は原詩織の自尊心を傷つけたくなかったので、このような回り道をして服を贈ろうと考えました。

原詩織は足を止めました。さっきの人は...佐藤和音?

佐藤和音に間違いありません。彼女は見間違えてはいませんでした。

なぜ佐藤和音が金山若夫人と一緒にいるの?

原詩織の心の底から不吉な予感が湧き上がってきました。

何とも言えない不安が一気に彼女を襲いました。

悪い方向に考えたくはありませんでしたが、これまでに起きた様々なことが、そう考えざるを得ない状況でした。

「詩織ちゃん、来たのね?」原詩織を見た金山若夫人は、満面の笑みで彼女の方へ歩み寄りました。

「はい」原詩織は心に疑問を抱えていましたが、口には出しませんでした。

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佐藤和音が前回ジュピターとMVを撮影して以来、多くの人が彼女の素性に興味を持ち始めました。

彼女のダークロリータイメージが非常に完璧で、多くのファンを魅了したからです。

しかし誰も彼女が誰なのか分からず、ジュピターの公式Weiboでコメントして尋ねるしかありませんでした。

佐藤明人はそれを見て、すぐにマネージャーと他のメンバーに妹の個人情報を漏らすことを禁止しました。

そして妹を新しいMVのヒロインに起用したことを後悔し始めました。

しかし佐藤明人は一般のネットユーザーは防げても、芸能プロダクションや広告会社は防げませんでした。

芸能プロダクションは佐藤明人に、佐藤和音の将来性に期待していて、彼女と契約したいと伝えてきました。

佐藤明人は即座に拒否しました。

芸能プロダクションの責任者は彼を説得し、急いで拒否しないように、この件は佐藤和音本人の意思次第だと言いました。もし佐藤和音自身が芸能界に入りたいと思うなら、兄である彼には彼女に代わって拒否する権利はないと。

佐藤明人は考えた末、責任者の言う通りだと思いました。自分も母親の意思に反して芸能界に入ったのだから、和音が自分でそう望むなら、どうして止める権利があるでしょうか?

そこで佐藤明人はこの件を佐藤和音に伝えました。