「覚えたね」菊地秋次は口元に笑みを浮かべ、深い眼差しを向けた。
佐藤和音は顔を上げて菊地秋次を見た。
「そんなに見上げなくていいよ。そんな姿勢で首が疲れないの?」
背が低いから見上げるのが大変、なんて酷い。
佐藤和音は慌てて顔を下げた。
すると頭上から菊地秋次の低い笑い声が聞こえてきた。
からかわれた……
二人はダンスフロアで優雅に踊っていた。
二人とも容姿が際立って優れていたため、踊る姿も他の人々より一層目を引いた。
千葉優花は菊地秋次がこれほど女の子に対して忍耐強く接するのを初めて見た。
これはもはや単なる一曲を踊ったという問題ではなかった。
さらに先ほど菊地秋次があの女の子にダンスを教えている時、その眼差しや仕草が驚くほど優しかった。
千葉優花は自分の見間違いではないと確信した。確かにいつもより柔らかな態度だった。
千葉佳津も菊地秋次と佐藤和音の踊りを見ていた。千葉家の執事が近づいて告げた:
「若様、あなたも一曲、どなたかご婦人をお誘いになるべきです」
「分かった」千葉佳津は眉をひそめた。気が進まなかったが、断ることもしなかった。
本家に戻ってからは、こういった面倒な事柄に対応しなければならないことは十分承知していた。
原詩織は群衆の中に立っていた。
千葉佳津は突然彼女の前に現れ、ダンスに誘った。
千葉佳津は原詩織のことを覚えていなかった。ただ群衆の中から自分と年齢の近い女性をランダムに探しただけだった。
そして原詩織が一番近くにいただけだった。
突然の誘いに、原詩織はその場で固まってしまった。
あまりにも突然の喜びに。
金山若夫人が隣で促してようやく我に返った。
そして手を差し出し、千葉佳津の手に置いた。
千葉佳津は原詩織をダンスフロアへと導いた。
千葉佳津も原詩織も踊りが上手で、しかも両者とも素晴らしかった。
美男美女の魅惑的な踊りは、それまでの注目の的だった菊地秋次と佐藤和音の風采を一気に凌駕した。
原詩織は夢のような非現実感を覚えていた。
まさか自分が千葉佳津と一曲踊れるとは、夢にも思わなかった。
この瞬間、まるで雲の上を歩いているかのような感覚で、心からの喜びが溢れ出た。
周りの人々は見ながら小声で話し始めた: