「彼の服は君が吐いたんだよ。全部彼の体に吐いちゃって、自分の体には一滴も付かなかった。だから私たちは彼の上着と外のズボンを脱がせるしかなかったんだ。二人が同じ部屋にいた理由は...」
「どうして?」
「君が彼を部屋まで送ると言い出して、彼の体に吐いたから責任を取るって。誰の手も借りたくないって、自分でやると言い張って。それで彼を部屋に引きずり込んで、彼が倒れた後に君も倒れちゃったんだ。」
「その時、あなたはそこにいたの?」
「うん、吉野教授も側にいたよ。」
「じゃあ、私を運び出さなかったの?」
「恵子姉、私たちにはそんな勇気ないですよ!」
研究所全体を見渡しても、誰が恵子姉に手を出す勇気があるだろうか?命が惜しくないのか?
恵子姉が故意に倒れたかもしれないじゃないか?
そんな時は賢明に立ち去って、恵子姉の部屋の鍵を閉めてあげるのが一番だ。
奥野実里はほっと息をついた。「よかった、よかった。酔っ払って何か悪いことをしでかすところだった。酔った勢いで人を襲うところだったよ。」
そう言いながら、奥野実里は少し物足りなさを感じていた。
具体的に何が物足りないのか、奥野実里にも分からなかった。
続けて奥野実里は慌てて言った。「そうそう、今日のことは和音ちゃんには絶対に言わないでよ!」
「なんで?」
「なんでって、私が彼女の兄さんを襲いそうになったことを知られたらまずいでしょ!このバカ!」
藤田安広は俯いて、片手で眼鏡を直しながら、心の中で呟いた。昨夜和音ちゃんの兄を追いかけ回して義兄弟の契りを結ぼうとしていた人が誰だったのかな。
奥野実里は藤田安広の目が泳いでいるのに気付いた。「何か悪いこと考えてるでしょ?」
「いいえ、何も考えてません。」藤田安広は急いで答えた。「あの、恵子姉、服を返しに行った方がいいんじゃないですか?相手はアイドルですし...」藤田安広は提案した。
「アイドルだって分かってるなら私に持って行かせるなよ。あんたが行きなさい!私は帰るわ!」
奥野実里は袋を藤田安広の胸に押し付けると、振り返りもせずに大股で立ち去った。
歩きながら口の中で呟いていた。「くそ、写真でも撮られたらアイドルの評判を落としかねないじゃないか。私がそんなことする人間に見えるか?」