再び、学校へ

まもなく、馬場輝が牛乳を二杯持って出てきて、二人のいるテーブルにそっと置いた。「熱いうちに飲みな。どっちも砂糖は入れてあるから」

「ありがとう、輝お兄さん」高橋桃はにぱっと笑い、歯茎まで見せんばかりの笑顔を輝に向けた。

馬場輝は「どうってことないさ」と言うと、そばにあった椅子を引き寄せ、絵里菜の隣に腰を下ろした。それから服のポケットをごそごそと探り、丸められた千円札を取り出して、絵里菜の目の前に差し出した。「絵里菜、昼は学校で何か美味いもんでも食べな」

牛乳を飲んでいた絵里菜の手が、ぴたりと止まる。その千円札に視線を落とし、ぱちぱちと瞬きをしてから言った。「お金なら持ってるよ。お兄ちゃんが使って」

高校に入ってから、毎月初めに母から2万円の生活費をもらっていた。普通の高校生ならそれで足りるのかもしれないが、この第二中学では、普通の昼食でも一食800円くらいはする。たまに少し良いものを食べようものなら、月末を待たずに2万円は消えてしまうのだ。

幸い、兄が毎月こっそりと給料の一部をくれる。母はこのことを知らない。兄が自分の小遣いとして大半取っているとずっと思い込んでいるが、実際には兄はそのお金を絵里菜にくれていた。兄はこの第二中学がどういう学校か知っていて、絵里菜が学校でクラスメイトに見下されるのではないかと心配してくれているのだ。

そんなわけで、実のところ絵里菜は毎月五、六万円ほどのお小遣いをもらっていた。普通の高校生である彼女にとっては十分すぎる額だったが、だからといって絵里菜がお金を湯水のように使ったことはない。毎日一番安い昼食を食べ、残りはこっそりと貯金していた。

「いいから、持ってけって。兄ちゃんは明日給料日だから」輝はお金を無理やり絵里菜に握らせると、彼女が何か言う間もなく立ち上がった。「早く食べ終わって学校に行けよ。俺は仕事に戻るから」

「うわあ、輝お兄さんって絵里菜に優しすぎじゃない!?」高橋桃は目をハートにして、大げさな表情で言った。「私、大人になったら絶対、お兄さんみたいな人と結婚するんだから」

「ちょっと待った!」絵里菜は桃を見て言った。「誰を好きになってもいいけど、お兄ちゃんだけは、絶対にダメ!」

熱い思いに冷や水を浴びせられ、桃は唇をとがらせた。「わかってる、わかってるってば! ダメならダメでいいじゃない、『絶対』までつけちゃって。誰を脅してるのよ!」

桃の表情を見て、絵里菜はまた少し笑いたくなった。別に他意はないのだ。ただ、前の人生で桃は順風満帆な人生を送っていた。兄のことで余計なエネルギーを浪費してほしくなかっただけだ。そうすれば、彼女は多くの回り道をせずに済むだろう。

第二中学校は世田谷区と港区の境界にあり、毎朝、通りの角の駅からメトロに乗れば、30分ほどで学校に着く。

ちょうど生徒たちが登校してくる時間帯だった。絵里菜は人の流れに乗り、第二中学校の門をくぐる。かつて見慣れた全てのものが目に映る。努めて自然に振る舞おうとしたが、心の奥底では、どうしても少しの興奮と緊張が込み上げてくるのを抑えられなかった。

「ねえ、あれ、馬場絵里菜じゃない?」

「え?本当だ。溺れ死んだんじゃなかった?」

「馬鹿言わないでよ。病院に運ばれて手当て受けたんでしょ」

「まだ数日しか経ってないのに、もう学校に来るなんて早くない?」

校内に入ると、周りからひそひそと囁く声がたくさん聞こえてきた。相手は皆、わざと距離を取り、声を潜めているようだったが、絵里菜にはそれでもはっきりと聞き取ることができた。これも、心法を身につけたことと関係があるのかもしれない。

だが、絵里菜はそうした噂話にはまるで耳を貸さなかった。自分が水に落ちた時の詳しい状況は、実のところ全く覚えていないのだ。桃は鈴木由美に突き落とされたと言っていたが、それが一体なぜなのか、これから少しずつ探っていくしかないだろう。