クラスの女番長

高校1年3組、馬場絵里菜は教室の入口で思わず足を止めた。教室からはクラスメイトたちの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。その全てが、絵里菜にはどこか現実離れしているようで、それでいて妙にリアルに感じられた。

ドアを開けて中に入る。入口に立つ絵里菜の姿を目にしたクラスメイトたちは、一斉に口をつぐんだ。まるで瞬間的に、自分だけが隔離されたかのような反応。中には、表情を取り繕う暇すらなかった者もいる。

絵里菜は心の中で苦笑した。この光景にはあまりにも見覚えがある。高校の三年間、彼女はずっとこのクラスの部外者のようだった。一度だって、本当に溶け込めたことはなかったのだ。

クラスメイトたちも、わずかな沈黙の後、それぞれまた自分のしていたことに戻っていく。大病から回復して学校に戻ってきた絵里菜に、誰一人として、容態を尋ねようと近づいてくる者はいなかった。

絵里菜にしてみれば、どうでもいい他人からの、うわべだけの心配など必要なかった。

「入らないなら、どいてくんない!?入口に突っ立って、門番のつもり?」

その時、背後から苛立ったような女の声がした。絵里菜ははっとして振り返る。真正面から向けられたのは、侮蔑と嘲笑を浮かべた一対の瞳だった。

十数年ぶりに見る顔だったが、絵里菜はすぐに目の前の人物が誰だか分かった。高橋桃が言っていた、自分を池に突き落とした張本人——鈴木由美だ。

鈴木由美は背が高く痩せていて、小さな顔に大きな目をしており、まるでお人形のように精巧な顔立ちをしている。しかし、彼女をよく知る者は皆知っていた。そのお姫様のような外見の下には、極めて暴力的な魂が宿っていることを。

しかも、彼女は自分から積極的に人に突っかかっていくタイプだった。絵里菜は覚えている。かつて、別のクラスの女子生徒が、廊下で彼女を少し長く見たというだけで、鈴木由美とその仲間たちから酷い目に遭わされたことがあった。

自分も高校時代は、できる限りこの人物を避けていた。当時の自分は目立たず、ただ黙々と勉強に打ち込むことしか知らなかった。自分の存在感を極力薄めることで、鈴木由美との間に摩擦が生じることはなかったのだ。

まさか転生した今、最初に向き合うことになったのが、このクラスで有名な「女番長」だったということ!

絵里菜は視線を引き、余計な表情一つ残さず、真っすぐに自分の席へと向かった。

鈴木由美の表情が一瞬固まった。絵里菜に無視されたことを受け入れられないようで、以前なら絵里菜は彼女を見るとまるで頭を襟の中に埋めて歩きたいほど恐れていたのに、今はまったく反応がない?

絵里菜がカバンを置いて席に着いたばかりのところへ、鈴木由美が追いかけてきた。絵里菜の席の横に立ち、目を見開いてわざと声を張り上げた。「馬場絵里菜、林駆(はやし かける)からラブレターをもらったからって調子に乗らないでよ。あんた知らないでしょうけど、林駆があんたにラブレターを書いたのは、藤井空(ふじい そら)たちと賭けをしたからよ。あんたみたいな本の虫が林駆のことを好きかどうかって賭けたの」

「そうよ、自分が林駆と付き合えるとでも思ったの?林駆に告白しに行くなんて、笑っちゃうわ」別の女子生徒が冷たい声で同調した。

絵里菜は机の整理をする動作を一瞬止めた。こう聞くと、彼女が思い出せなかったこの一連の出来事がすべて明らかになったようだった。

林駆、この名前を絵里菜は一生忘れることはないだろう。なぜなら林駆は彼女の青春時代で唯一密かに想いを寄せた人物だったから。でも絵里菜は誰にも言わなかった、林駆本人にさえも。

もちろん、林駆はイケメンで、バスケットが上手く、成績も良く、性格も明るく、彼を好きな女の子はたくさんいた。その中には目の前の鈴木由美も含まれていた。

しかし、これらすべては絵里菜にとって過去のことに過ぎなかった。自分が確かに高校3年間ずっと林駆に密かな想いを寄せていたことを否定はしないが、今の彼女の心には何の動揺もなく、むしろ少し笑いたい気分だった。

鈴木由美に池に突き落とされたこの件は、きっと林駆からのラブレターと無関係ではないだろう。