馬場絵里菜はゆっくりと顔を上げ、感情を全く見せない瞳で鈴木由美を見つめ、大きくはないがクラス全員に聞こえる声で言った。「林駆さんが私にラブレターを書いたかどうか、なぜ書いたのか、それが一体、鈴木さんに何の関係があるの?」
鈴木由美が何か言い返す前に、絵里菜は鼻でふんと笑い、続けた。「まさか、鈴木さんが林駆のこと好きなの?だからそんなに逆上して!嫉妬心から、私を学校の池に突き落とすなんてことまでしたわけ?」
絵里菜が池に落ちたことは皆が知っていたが、それが鈴木由美に突き落とされたことまでは、全ての人が知っていたわけではない。今、絵里菜にあっさりとそう言い放たれ、さすがの鈴木由美も顔色を変え、顔を真っ赤にして大声で叫んだ。「馬場絵里菜、でたらめ言わないでよ!あんたが勝手に池に落ちたんでしょ、私に何の関係があるって言うの!?」
周りのクラスメイトたちも、その様子を見て顔色を変え、ひそひそと囁き始めた。
「馬場さんて、鈴木さんに突き落とされたの?」
「まだ知らないの?私、2日前に聞いたよ」
「私も聞いた。嘘かと思ってたけど、本当だったんだ」
「それはちょっと酷くない?あの池、水深3メートル以上あるんでしょ?もし何かあったらどうするつもりだったんだろ」
絵里菜がクラスで孤立しているのは、単に家が貧しいからであって、本当に人に嫌われているわけではなかった。今、真相を知ったクラスメイトたちは、彼女のことが好きではないにしても、この件に関しては絵里菜が罪なく、そして哀れだと感じ始めていた。
鈴木由美が、これほどまでに陰口を叩かれたことがあっただろうか。普段、クラスでは我が物顔で歩き、誰一人として自分に逆らうことなどできなかったのに。今日、よりにもよって一番目立たない馬場絵里菜に真正面から言い返されたのだ。プライドを深く傷つけられたと感じたのだろう、由美はとっさに絵里菜の髪を掴もうと手を伸ばした。
「馬場さん!」
誰もが、絵里菜はもう鈴木由美にやられるしかないと思った、まさにその時。教室の入口から、澄んだ声が響いた。
その声を聞いた瞬間、鈴木由美の手はぴたりと空中で止まった。クラスの他の生徒たちも、一斉に入口の方へと視線を向けた。
3組の教室の外には、色白で、とりわけ精悍な顔つきの男子生徒が立っていた。
15歳にしては背が高く、180センチ近くあるだろうか。すっきりとした短髪で、前髪が眉を隠し、きらきらと輝く瞳だけが覗いている。鼻の頭にはまだ乾ききらない汗が薄っすらと光っており、左手にはバスケットボールを抱えているところを見ると、どうやらたった今までグラウンドでバスケをしていたらしい。
朝の日差しが彼の背中を照らし、黄金色の光輪が彼をより一層輝かしく見せていた。
他でもない、林駆だった!
馬場絵里菜も本能的に振り向き、林駆の視線と真正面からぶつかった。
「ちょっといい?話があるんだ!」
林駆は表情をあまり変えず、見つめ返してきた馬場絵里菜に向かって軽く顎をしゃくった。
皆は一斉に馬場絵里菜の方を振り向き、様々な表情を浮かべた。林駆が3組の教室まで来て直接馬場絵里菜を呼び出すとは予想外だった。以前は賭けでラブレターを書いただけじゃなかったのか?
馬場絵里菜は気取ることなく、すぐに立ち上がって鈴木由美の横を通り過ぎ、廊下へ向かった。
馬場絵里菜が教室を出ると、皆は一斉に騒ぎ出した!
「えっ、どういうこと?」
「林駆くん、本当に馬場さんのこと好きなの?」
「まさか…」
「何がまさかよ。馬場さん、結構可愛いじゃない」
「それはそうだけど…」
廊下の向こう側で、絵里菜は林駆の前に立ち、身長差のため、少し顔を上げないと目が合わなかった。