嘘をつく人は必ず後ろめたさを感じるものだ。自分がどうやって怪我をしたのか、鈴木由美は誰よりもよく分かっていた。目の前で母親が警察に通報する電話をかけているのを見て、由美は慌てて「お母さん、やめて……」と言った。
「由美、怖がらないで。お母さんがついているから、この件は絶対に終わらせないわ!」田中霞は娘の言葉を遮り、そして電話口に向かって「はい、第二中学です。関係者は全員ここにいます。すぐに来てください」と言った。
田中霞が警察を呼んだのを見て、他の人々は顔を見合わせた。高橋先生が何か言おうとしたが、校長の手振りで制止された。
この田中霞とは話が通じにくく、明らかに馬場絵里菜を退学させようとしている。このまま膠着状態を続けるよりも、警察に来てもらって処理してもらった方がいい。是非はきっと公正な結果が出るはずだ。
馬場絵里菜は平然とした表情を浮かべていた。明らかに田中霞の通報は自分の首を絞めることになり、真相が明らかになれば恥ずかしい思いをすることは避けられないだろう。
それに比べて、最も緊張していたのは鈴木由美だった。学校で悪いことをたくさんしてきたが、警察と対面したことは一度もなかった。事態がここまで発展してしまい、どう説明すればいいのか分からなくなっていた。
警察の動きは早く、わずか十数分で校長室に到着した。
事の顛末を詳しく理解し、その場には第二中学校の幹部たちが揃っていたため、生徒間のトラブルとはいえ、二人の警察官も軽視することはできなかった。
年配に見える方の警官が「双方の言い分が食い違っているようですので、校門の監視カメラの映像を確認しましょう」と切り出した。
警備主任は頷いて「学校内には六台のカメラしかありませんが、校門のカメラは昨日の事件現場を撮影できているはずです」と答えた。
監視カメラの映像を見ると聞いて、鈴木由美はさらに慌てた。その場で緊張のあまり言葉も詰まりながら「あの……お巡りさん、監視カメラは……もういいです。追及するのは……やめます。ただの……ただの生徒間の誤解です」と言った。
「そんなことないでしょう!」馬場絵里菜は薄く笑みを浮かべながら、ゆっくりと「お巡りさんがせっかく来てくださったのに、追及しないというのは、警察の力を無駄遣いすることになり、国の資源の浪費になってしまいます」と言った。