「絵里菜……」
細田登美子は娘のことが心配で、まだ何か言おうとしたが、馬場絵里菜に遮られた。「お母さん、外で待っていて」
先ほど娘がこの件は自分に任せてと言ったことを思い出し、細田登美子は言いかけた言葉を飲み込んだ。少し躊躇した後、馬場輝と共に取調室を出た。
ドアが閉まり、部屋の中には馬場絵里菜と鈴木強の二人だけが残された。
「君は馬場絵里菜さんだね……」
大人として、鈴木強は沈黙を破って最初に口を開いた。ビジネスの世界では先手必勝というが、示談となれば結局は金銭的な賠償の問題だ。お金が絡む問題となると、ビジネスマンの鈴木強は本能的に先に話し出すことを選んだ。「とにかく、おじさんはあなたに感謝しているよ。さっき鈴木先生から家庭の状況を聞いたところ、あまり裕福ではないようだね。こうしよう、おじさんから二百万円の補償金を出そう。どうかな?この金額なら大学まで行けるはずだよ」
鈴木強の話し方は穏やかだった。いきなり二百万円と切り出したが、馬場絵里菜のような家庭にとっては確かに天文学的な数字だった。
しかし馬場絵里菜は違った。前世では数億円の資産を持つ不動産会社の女社長だった彼女にとって、たかが二百万円など物の数ではなかった。
「鈴木おじさん、ビジネスの手法で私を騙そうとしないでください」馬場絵里菜は冷ややかな口調で言った。
鈴木強は眉をひそめ、馬場絵里菜の言葉の意図が分からないようだった。彼女は自分の言葉を聞き取れなかったのだろうか?
二百万円といえば、彼女のような家庭にとっては二、三年分の総収入に相当する。決して小さな金額ではない。
鈴木強の疑問に満ちた視線の中、馬場絵里菜は勝手に椅子まで歩いて座り、再び口を開いた。「あなたの目的は財産を失って災いを免れることです。あなたの娘の災いをね。一年間の少年院での矯正教育が、あなたの目には二百万円程度の価値しかないのですか?」
「馬場さん、二百万円というのは決して小さな金額ではありません。あなたにとって……」