そのとき、廊下の反対側から一人の男が急ぎ足で近づいてきた。
その男はスーツを着こなし、中年に差し掛かり、髪はムースで整然と整えられていた。その身なりだけを見ても、仕事で成功を収めていることが窺えた。
馬場絵里菜は一目見ただけで、目の前の男が鈴木由美の父親だと分かった。会ったことはなかったが、鈴木由美は父親にそっくりで、特にあの大きな目が似ていた。
案の定、鈴木先生はその男を見るなり立ち上がって迎えに行き、近づく前に途中で引き止めて脇へ連れて行った。
鈴木先生は鈴木由美の父親に状況を簡単に説明した。その男は眉間にしわを寄せ、最後に頷いてから馬場絵里菜の前に歩み寄った。
礼儀正しく、馬場絵里菜の家族も全員立ち上がった。その男は口を開く前に深々と頭を下げた。「私は鈴木由美の父親です。まず、娘が起こした事について謝罪させていただきます。子の教育を怠った親の過ちです。私が親として子供をきちんと教育できていませんでした。」