霞さんは説明しようとしたが、細田登美子が先に口を開いた。「井上さん、私はクラブで十二年間働いてきました。もう年も取りましたし、この仕事には向かなくなってきました。それに、クラブでは毎日たくさんのお酒を飲まなければならず、家族も私の健康を心配しています。辞めるのは子供たちを心配させないためです。」
細田登美子の言った二つの理由は、とても筋が通っていた。少なくとも周りの人から見れば、細田登美子はまだ魅力的ではあったが、クラブには若い女の子たちばかりで、比べると確かに年齢が高かった。
「十二年?」
しかし、井上裕人という人物の考え方は他人とは全く違っていた。細田登美子の話の中で、井上裕人の耳に入ったのは「十二年」という言葉だった。彼は少し驚いた表情で目を瞬かせながら言った。「そうか、十二年前か。私はまだ子供だったな。十二年もここで働いているのか?国営企業なら家を二軒もらえるぐらいだぞ!」