細田登美子もうなずき、心の中でこの住宅地の場所は本当に良いと思った。どこへ行くにも便利だ。絵里菜の学校に近いだけでなく、自分の勤め先のパラダイスクラブからも近い。
馬場絵里菜はこの時、販売員の女性に尋ねた。「今、マンションにはどんな間取りが残っていますか?」
「ご家族は何人でお住まいになりますか?」販売員は丁寧に尋ね返した。
「三人です。私と母と兄と一緒に住みます」と馬場絵里菜は答えた。
販売員は心の中で少し驚いたが、表情には出さずにすぐに笑顔で言った。「そうでしたら、80平米の物件がまだ数件お選びいただけます。100平米と120平米は発売と同時に完売してしまいました。今多く残っているのは50平米のワンルームタイプと、150平米および200平米のメゾネットタイプです。80平米も残りわずかですが、3人暮らしにはちょうど良い広さです。」
細田登美子は平米についてあまり概念がなく、考えてみても80平米がどれくらいの広さなのかわからなかった。
しかし馬場絵里菜は違った。彼女は間取りと平米数について熟知していた。一般的に販売員が言う80平米は建物の総面積で、実際の使用可能面積は壁面を除いた分になるため、販売員の言う80平米は実際の使用可能面積が60平米程度かもしれない。
一人一部屋必要とすると、60平米の使用可能面積は狭すぎる。
「150平米と200平米を見せていただけますか」と馬場絵里菜は直接言った。
販売員は少し困ったように細田登美子を見て、若い女の子の言葉を聞くべきかどうか迷っているようだった。
意外にも細田登美子もうなずいて「大きい方を見せてください!」と言った。
実は細田登美子は朝から家を買うと決心してから考えていた。買うなら広いものを買おうと。息子も娘も大きくなって、それぞれ自分の空間が必要だし、少なくともトイレは2つないといけない。
細田登美子もそう言うのを見て、販売員は笑顔でうなずきながら「少々お待ちください。モデルルームの図面を持ってまいりますので、ご参考にしていただき、もしお気に召しましたら、すぐにご案内させていただきます」と言った。
販売員が立ち去ると、馬場輝はようやくため息をつき、小声で「このマンション、きっとすごく高いよ」と言った。