第051章:細田部長が正式に就任

その言葉を言い終えると、井上は細田登美子の前に歩み寄り、真剣な面持ちで語りかけた。「あなたはパラダイスで長年働いてきたから、パラダイスの経営方針をよく理解しているはずです。井上財閥は全国にナイトクラブを数多く持っていますが、接客サービスはあっても、決して不正な商売はしていません。これからはパラダイスの社長として真面目に仕事に励んでください。井上家はあなたを大切にします」

細田登美子は、まさか井上の前でこのような真摯な言葉を聞くことになるとは思ってもみなかった。その場で胸が高鳴るばかりだった。しかし、緊張の中にも、細田登美子は突然理解した。

この社長の座は井上が一時の気まぐれで任命したものではなく、昨夜の出来事を見ていたからこそ、その後の展開につながったのだと。そう考えると、細田登美子の心は少し落ち着いた。この地位には因果関係があり、井上の単なる思いつきではなかったのだから。

馬場絵里菜は心の中で躊躇していた。井上の言葉を聞いて、母の仕事についてもう心配すべきかどうかわからなくなった。ソファに座る端正な顔立ちの男性を見上げると、彼も自分を見つめ返していた。その整った顔には少し邪気な笑みが浮かび、目には底知れない揶揄の色が宿っていた。まるで馬場絵里菜に「まだまだ甘いね」と言っているかのように。

彼の瞳があまりにも深く、馬場絵里菜は思わずその中に吸い込まれそうになり、慌てて視線を外した。その一瞬の慌てぶりが井上裕人の目に留まり、彼の口元の笑みは思わず大きくなった。

「豊田君、さっき話し合った物件を、このじいさんのために取っておいてくれ」と井上は豊田剛に向かって言うと、大きく伸びをして外へ向かった。

井上裕人は立ち上がって後を追ったが、馬場絵里菜の傍を通り過ぎる時に明らかに一瞬立ち止まった。馬場絵里菜は横から向けられる井上裕人の視線を感じたが、顔を上げて見返すことはしなかった。鼻先に彼の身に纏う良い香りが漂い、魅惑的で甘美な香りだった。

モデルルームを出る頃には、空はすっかり暗くなっていた。細田登美子は購入契約書を手に取り、興奮を抑えきれなかった。彼女の家族は港区の最高級マンションで200平米の部屋を手に入れたのだ。

最も重要なのは、この物件が半額で、わずか350万円で購入できたことだった。