「命を救ってくれたのに、豊田の感謝だけを受け入れて、この老人の感謝は受け入れないとは?」井上はふくれっ面をして、馬場絵里菜のやり方に不満そうな様子を見せた。
馬場絵里菜が説明しようとした矢先、販売センターの玄関から慌ただしい人影が急いで入ってきた。
「お爺さん!」
井上裕人は足早に歩き、足取りは焦りに満ちていた。その端正な顔には緊張の色が浮かんでいた。
井上は来訪者を見て一瞬驚き、その後、隣にいるスーツ姿の男を責めるような目で見た。明らかに誰が孫に連絡したのかを知っていた。
「お爺さん、大丈夫ですか?」
井上裕人はいつもの放蕩息子のような態度を改め、珍しく真剣な表情で、お爺さんの体を上から下まで観察し、無事を確認しているようだった。
「大丈夫だよ、大丈夫。大げさに騒ぐことはない」井上は手を振りながら言った。