第062章：お金はあるけど、貸さない

お婆さんは強硬と懐柔の両方を試み、強硬策が通用しないと見るや涙を流し始めた。

しかし、この手口は細田登美子にとってはもはや見慣れたものだった。かつては血のつながりに心を動かされたこともあったが、この数年の経験で、両親の心の中で自分がどれほどの価値しかないのかを痛感していた。

「お母さん、どうして兄さんに頼まないの？この数年、商売で大金を稼いでいるのに、10万元は大金かもしれないけど、出せないほどじゃないでしょう？」登美子は母親の涙を無視して、冷たい声で尋ねた。

河合愛香は娘の口調から自分の涙が無駄だったことを悟り、まるで蛇口を閉めたかのように、すぐに涙を止めた。

「もちろん最初は兄さんに頼んだわよ。でも、最近新しいプロジェクトに投資したばかりで、使える資金が少ないの。弟の結婚資金に出してしまったら、会社の資金繰りが回らなくなってしまうわ。」

登美子はこれを聞いて心の中で冷笑した。先週末、分譲マンションの売り場で兄が愛人を連れて物件を見て回っているのを目撃したばかりなのに、こんな嘘をつく。母親だけがこんな話を信じるのだろう。

かつて家には4人の子供がいて、兄は両親に最も愛されていた。唯一の進学の機会も兄に与えられ、今では成功して金持ちになったが、恩を知らず、毎月の親の扶養費も他の兄弟と同じで、一銭も多く出すことはなかった。

それでも両親は依然として兄の言うことを絶対的に信じ、何事も兄を優先し、決して兄に無理を言うことはなかった。

「じゃあ、繁の家は？」

登美子は兄の件では母親を説得できないと悟り、弟が足立区に持っている家のことを思い出した。

両親は当時苦労して2軒の家を貯めて、1軒を兄に、もう1軒を弟にあげた。どちらも足立区の平屋だが、売れば数万元にはなるはずだ。しかも今、足立区は再開発が予定されており、再開発補償金を待てば、新しいマンションが買えるほどの金額になるはずだった。

しかし、明らかに母親と弟は再開発のことを知らなかった。細田繁は痛む頬をさすりながら、またソファーに腰を下ろして言った。「あんなボロ家で結婚できるわけないだろ？売ったところで、マンションを買うには足りないよ！」

「そうよ」河合愛香が続けて言った。「お嫁さんの方は、マンションじゃないとダメだって。それに結納金もいるし、その他いろいろと準備するのにもお金がかかるのよ。」