馬場絵里菜は高橋桃の方を振り向いて、じっと見つめた。高橋桃の顔は一瞬で真っ赤になった。
馬場絵里菜は眉をひそめ、小声で言った。「桃、どうしたの?高遠晴のことが好きになったんじゃないの?」
「わ...私はそんなことない!」高橋桃は真っ赤な顔で否定したが、心の中で余計なことを言ってしまったと後悔していた。
「嘘でしょ!あなたの表情を見れば一目瞭然よ!」馬場絵里菜は目を見開いて言った。
「本当に...違うの...」高橋桃は顔を胸に埋めるように俯き、声も段々小さくなっていった。明らかに自信のない様子だった。
馬場絵里菜はその様子を見て目を白黒させながらため息をついた。「あのね、思春期でホルモンが活発なのは分かるけど、好きになる相手を間違えちゃダメでしょ。高遠晴よ?いつも無表情で、女の子に興味なしって感じじゃない。それに、あなたが彼と知り合ってまだ数日でしょ?学校の噂話を聞きすぎて本当だと思い込んじゃったんじゃないの?ハンカチを恋愛の証だと思っちゃったの?」
「絵里菜、怒らないで...私は...」高橋桃は言葉を詰まらせ、悲しそうな顔をした。「ただ彼が特別な人に感じるだけで、好きまではいってないの。本当よ、誓うわ!」
馬場絵里菜はその言葉を聞いて、また長いため息をついた。同年代の男子と比べると、高遠晴は確かに落ち着いている。名家の出身で、裕福な家庭に育ち、生活の細部や趣味においても人より上品だった。第二中学校のような名門校でも、彼は群を抜いて目立つ存在だった。
馬場絵里菜は高遠晴のことを嫌いではなく、むしろ少し好感を持っていた。ただ、高橋桃のことを考えると、彼女が傷つくのを見たくなかった。
「誰かを好きになることを反対しているわけじゃないの。誰を好きになってもいいけど、その覚悟ができてからにしてね」馬場絵里菜は結局優しく諭した。
彼女は高橋桃ではないから、高橋桃の代わりに決めることはできない。それに、誰かを好きになることは制御できないものだ。前世でも自分が林駆のことを三年間片思いしていたように、その気持ちがよく分かっていた。
高橋桃は馬場絵里菜の心配そうな眼差しを見て、胸が熱くなった。最後に力強くうなずいた。「絵里菜、安心して。私、バカなことはしないから」
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