馬場絵里菜は白目を向けて不機嫌そうに、白川昼とのふざけた会話を続けず、ソファに座ってから本題に入った。「電話で言っていた件は済んだの?」
白川昼も表情を引き締め、真剣な面持ちで頷いてから、一つのファイルを馬場絵里菜に渡した。「門主、ご自分でご覧ください」
馬場絵里菜は今や白川昼の向かいに座っているものの、まだ完全には信じきれていなかった。白川昼の能力をまだ十分に把握できていないというのもあるが、それ以上に、グループ会社の設立に必要な時間と労力を馬場絵里菜はよく知っていた。前世で東海不動産を設立した時は、全ての手続きを完了するのに半年近くかかったのだ。
半信半疑でファイルを開き、馬場絵里菜は一枚一枚確認していった。白川昼もタイミングよく説明を始めた。「門主、ご指示通り会社名は『Mグループ』として登記し、第一子会社を東海不動産としました。登録資本金は100万円で、認可書類は全て中にあり、押印済みです。会社の所在地は港区に決め、一フロアを借りました。以前の会社が引っ越したばかりで、既存の内装も悪くないので、改装の必要はないと判断しました。パソコンやオフィス用品は既に発注済みです」
馬場絵里菜は書類を確認しながら話を聞いていたが、表情は平静を装っていたものの、内心では驚いていた。
本当に全て済ませてしまったなんて……
「コネを使ったの?」馬場絵里菜は疑問に思い、つい口に出してしまった。
「そうでなければどうして?」白川昼はあっさりと認めた。
馬場絵里菜は首を振って苦笑した。聞くまでもなかった。この速さは確実に裏ルートがあってのことだし、それもただの裏ルートではないはずだ。
社名のMは母の名前「梅」の頭文字で、不動産会社は前世の自分の東海不動産をそのまま使うことにした。
「200万円の残りはいくら?」馬場絵里菜はファイルを閉じ、顔を上げて白川昼に尋ねた。
白川昼は一瞬言葉を詰まらせ、小声で答えた。「50万円も残っていません」
馬場絵里菜はそれを聞いて軽く頷き、しばらく考え込んでから再び顔を上げて白川昼に言った。「まずは採用を始めましょう。会社を早く軌道に乗せないと。必要な経費は立て替えておいて、後で返すから」
門主が自分のお金を使うと聞いて、白川昼は目を輝かせた。「承知しました、門主」