翌日、雨上がりの東京には爽やかな香りが漂い、湿った空気が朝から人々を清々しい気分にさせていた。
馬場絵里菜が起きると、テーブルには朝食が用意されていた。家の朝食店は閉店したものの、母は毎朝早く起きて自分のために朝食を作ってくれていた。
身支度を整えた絵里菜がテーブルに着くと、細田登美子が台所からお粥を持って出てきた。絵里菜が顔を上げると、母の顔色が良くないことに気づいた。
「お母さん、具合悪いの?顔色があんまり良くないけど」絵里菜は心配そうに尋ねた。
母は今まで大変だったにもかかわらず、いつも生き生きとしていて、肌は透き通るように綺麗で、目も輝いていた。しかし今の細田登美子は目の周りがくぼみ、無視できないほどのクマがあり、全体的に元気がなく、目つきも虚ろで少しぼんやりしていた。
絵里菜の言葉を聞いても少し反応が遅く、やっと「大丈夫よ、昨夜は雷で眠れなかっただけ」と答えた。
絵里菜は眉をひそめた。前世で母は癌で亡くなっており、そのため今の絵里菜は神経質になっていて、母の様子が少しでも普段と違えば、本能的に緊張し心配になってしまう。
しかも今世は前世とは全く異なる軌道を描いており、母が肝臓癌になるかどうかは分からない。絵里菜が恐れているのは、母の病気が早まることだった。それは絶対に受け入れられないことだった。
そう考えた絵里菜は、細田登美子に「お母さん、私最近体調があまり良くないから、一緒に病院で健康診断を受けない?」と直接言った。
絵里菜は別の方法で母を病院に連れて行くことにした。そうすれば母は他のことを考えずに済むはずだった。
案の定、娘の体調が悪いと聞いた細田登美子は、すぐに絵里菜の隣に座って「どうしたの絵里菜、この前の溺れた時のが原因かしら?」と聞いた。
「たぶんね、時々頭が痛くなるから、病院で見てもらった方が安心だと思って」絵里菜は適当に嘘をついた。
「じゃあ、朝食を食べたら母さんが付き添って検査に行きましょう。午前中は学校を休むことにしましょう」細田登美子は絵里菜の体調を最も心配していて、特に前回溺れた後は数日間緊張が続き、絵里菜に後遺症が残らないか心配していた。