広場は港区で最も賑やかな場所に位置し、周囲には大型商業施設が立ち並んでいた。まだ時間が早かったので、馬場絵里菜は最寄りのミリオンデパートへと向かった。
タイムスリップして戻ってきて以来、これが馬場絵里菜にとって初めての目的を持った買い物だった。
2002年の東京は確かに繁栄していたが、この時期にはまだ高級ブティックは少なく、海外ブランドの進出も限定的で、店舗の8割は国産ブランドだった。
通りには至る所にCDショップがあり、店頭には人気歌手の小田和正のポスターが貼られ、店外のスピーカーからは当時の流行の音楽が流れていた。この頃は音楽を聴くにはカセットテープを買う必要があり、CDすら普及していなかった。後にインターネットが急速に発展し、CD時代が短期間で終わりを迎え、ネットに取って代わられ、レコード産業が一気に衰退することなど、誰が想像できただろうか。
馬場絵里菜は林駆へのプレゼントを既に心に決めていた。ミリオンデパートに入るとすぐに3階へと向かった。
光本万年筆は、馬場絵里菜が学生時代に憧れていたものだった。しかし、最も基本的なモデルでも100元近くするため、彼女には手が出なかった。馬場絵里菜はいつも数元の万年筆を使っていた。後に彼女は社長になったが、その頃には光本万年筆は経済の波に飲まれて倒産してしまっていた。
専門店のカウンターに着くと、様々なデザインの光本万年筆が陳列されており、どれも輝くように美しく、とても精巧だった。
シルバーグレーの万年筆が馬場絵里菜の目に飛び込んできた。滑らかで明るい光沢のある本体に、落ち着いたマットな質感が加わり、豪華な包装箱の中に静かに横たわっていた。価格は299元だった。
この価格は馬場絵里菜の現在の一ヶ月の生活費に相当したが、この万年筆の質感とデザインを見た瞬間、林駆の姿が浮かんだ。彼はきっと気に入るはずだと確信した。
「すみません、この万年筆を包んでいただけますか」馬場絵里菜はほとんど躊躇することなく、店員に声をかけた。
店員は言われるままに万年筆をケースから取り出し、笑顔で馬場絵里菜に言った。「プレゼント用でしょうか、それともご自分用でしょうか?最近、名入れサービスを始めまして、無料で万年筆に名前を刻印できますよ」