馬場絵里菜だけが馬場依子の言葉が分からないふりをして、その場で高橋桃と夏目沙耶香を引っ張って言った。「私たち、二階を見に行きましょう。」
そう言うと、三人は急いで階段を上がった。
最初から最後まで黙っていた柳澤夢子も高遠晴の袖を引っ張り、小声で言った。「晴、私たちも上がりましょう?」
高遠晴はその言葉を聞いて目を上げ、林駆と藤井空を見た。その目つきには明らかな意図が込められていた。
案の定、二人はその合図を受け取り、藤井空は伸びをするふりをして、つぶやいた。「車に座りすぎて背中が痛い、上がって少し横になろう。」
あっという間に、リビングには馬場依子と鈴木由美しか残っていなかった。
「由美、私たちも上がりましょう。」馬場依子はすぐに鈴木由美を見て、無邪気な表情を浮かべた。
しかし鈴木由美は今、馬場依子と落ち着いて向き合うことができなかった。
二人は馬場長生と鈴木強の関係で、幼い頃から知り合い、姉妹のように親しい仲だった。しかし今、鈴木由美は明らかに馬場依子の林駆に対する特別な感情を感じ取っていた。
彼女は転校してきたばかりなのに、なぜ林駆のために大々的に誕生日パーティーを企画するのか、その目的は明白だった。
最初は気づかなかったが、さっきの馬場依子の一言で目が覚めた。
林駆は自分も長年密かに想いを寄せていた男子だと思うと、鈴木由美は胸が痛くなり、馬場依子と林駆の間で、どちらを選ぶべきか迷っていた。
「依子……」鈴木由美は思い切って話すことにした。
「うん?」馬場依子は無邪気に目を瞬かせ、鈴木由美を見て尋ねた。「どうしたの?」
鈴木由美は唇を噛んだ。彼女の性格のせいで友達が多くなく、だからこそ馬場依子を大切にしていた。今、言葉が喉に詰まって、なかなか出てこなかった。
鈴木由美が言いよどむ様子を見て、馬場依子はすぐに近寄り、不思議そうに言った。「由美、どうしたの?さっきのことで気分を悪くした?」