その場にいた人々は何も言えなかった。結局、今日は林駆の誕生日なのだから、鈴木由美のためにこんな大切な日を台無しにするわけにはいかないのだ。
全員が馬場依子の後に続いてホテルのロビーに入ると、馬場依子は今夜の予定を紹介し始めた。「みんなのために温泉付きヴィラを用意したわ。このリゾートホテルで一番いいところよ。まずは部屋を選んで、それからレストランで夕食を食べて、林駆のお祝いをしましょう。夕食の後は温泉に入れるわ。」
全員がそれぞれ異なる表情を浮かべていたが、誰も馬場依子に返事をしなかった。先頭を歩く馬場依子は、みんなが彼女の完璧な手配に黙って同意していると思い込み、内心得意げになっていた。
フロントでは、従業員が馬場依子を見るなり、笑顔で熱心に声をかけた。「依子様、お友達の方々はもうお揃いですか?」
馬場依子は頷いて「はい、もう揃いました。ヴィラの鍵をください。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
ここは馬場家の所有物なので、馬場依子がいれば青信号のように、不必要な面倒な手続きは全て省略され、フロントで直接鍵を受け取ることができた。
一行は観光カートに乗り込み、奥にある別荘エリアへと向かった。
高橋桃はこんな高級な場所に来たことがなく、道端の芝生まで様々な美しい模様に刈り込まれ、至る所に形の異なる假山や噴水があり、芸術的な彫刻が目を引いて、目が回るほどだった。
「絵里菜、ここ本当にすごいね。」高橋桃は思わず馬場絵里菜の耳元で感嘆の声を漏らした。
馬場絵里菜はそれを聞いて軽く頷いた。確かに馬場家が開発したこの温泉リゾートは素晴らしく、全体的な内装とデザインは10年後でも古びない。
特に現在のこの時代では、温泉という究極のリラクゼーション施設はまだ国内に普及していない。このことからも、馬場グループが業界において独自の視点と先進的な投資理念を持っていることがわかる。
そのとき、前の席の馬場依子が突然振り返り、二人を見て言った。「馬場絵里菜さんと高橋桃さんは、普段こういう場所にはあまり来ないでしょう。今回を機会に、しっかり体験してくださいね!」
馬場依子は淡々と話し、顔には笑みを浮かべていた。他人から見れば、思いやりがあって行き届いているように見えるだろう。